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8月27日の世界の昔話
笛ふき岩
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むかしむかし、ある浜辺に、まずしい親子が住んでいました。
二人はさかなをとって、くらしていました。
息子は笛(ふえ)をふくのが上手で、まい朝、日がのぼると岩の上に立って笛をふきました。
そうすると、海のさかなも貝も顔をだして、ウットリと聞きいりました。
人びとは息子を『笛ふき』と、よびました。
ある日のこと、笛ふきは浜辺にたおれていたおじいさんをたすけました。
おじいさんはたすけてもらったお礼に、タケノコをくれました。
「このタケノコが大きくなったら、これでさかなをとるカゴをつくりなさい。それから、笛を二本つくりなさい」
と、いったかと思うと、スーッと見えなくなってしまいました。
笛ふきが、そのタケノコをうえると、タケノコは見るまに大きくなって、青あおとした一本の竹になりました。
笛ふきはそれをきって、さかなをとるカゴをあみました。
それから笛を、二本つくりました。
竹であんだカゴを海の中に投げこむと、さかながいっぱいとれました。
こうして親子のくらしは、とってもらくになりました。
ところがあるときのこと、カゴをいくら海にいれても、さっぱりさかながかかりません。
そのかわり、大きな貝が一つかかりました。
笛ふきは、その貝を家へ持って帰りました。
「お母さん。きょうはさかながとれなかったよ。大きな貝が一つだけさ。ほら」
と、いって、笛ふきはカゴからその貝をとりだしました。
するとそのとき、貝がパッと口を開いて、中から一人の娘があらわれました。
それはそれは、美しい娘でした。
笛ふきもお母さんも、ビックリ。
娘はニッコリ笑って、こんな身のうえ話をしました。
娘は海のそこに住んでいる、竜王(りゅうおう)のお姫さまでした。
笛をふくのがとても好きでしたが、だれも教えてくれません。
ある日、すてきな笛の音が、海の上から聞こえてきました。
お姫さまはこっそりさかなになって、それを聞きに海の上にうかんでいきました。
見ると、りっぱな若者が岩の上に立って、いっしんに笛をふいています。
お姫さまは、ウットリと聞きいりました。
それからというものは、まいにちのように海の上にうかびでては、笛の音に聞きいりました。
お姫さまは、その笛をふく若者が、だんだん好きになりました。
ところが竜王は、お姫さまをサメ大臣のところへお嫁にやろうとしたのです。
そこでお姫さまは、こっそりにげだして、貝のおばさんのところへいってわけをはなしました。
貝のおばさんは、やさしい人でしたから、お姫さまのねがいをかなえてあげようとおもいました。
「そこにある貝の中におはいり。そうすれば、笛ふきのカゴにいれておいてあげるよ」
貝のおばさんはそういって、大きな貝を指さしました。
お姫さまはその中にはいって、笛ふきのうちへきた、というわけです。
この話を聞いて、笛ふきもお母さんも喜びました。
二人とも、これからは三人でなかよくくらせると思ったのです。
ところがあくる日、とつぜん海があれはじめ、イナズマがピカピカと光り、雷がゴロゴロとなりだしました。
そのとき海の波間(なみま)に、サメの背中が見えました。
「サメがきました。はやくカゴを岸辺においてください」
と、お姫さまがいいました。
笛ふきは、いそいでカゴを岸辺におきました。
まもなくサメが、その上にはいあがってきました。
そのとたん、カゴはパッとはねあがって山ほども大きくなり、サメの上にかぶさってしまいました。
サメはとじこめられて、でられなくなりました。
やがてカゴもサメも、黄色い岩山になってしまいました。
あくる日になると、海にはまた、波のほえる音がとどろきました。
ドドーッ! ドドーッ!
山のような波が、岸辺におそいかかってきました。
お姫さまは、ジッと海を見ていましたが、やがて顔を青くしていいました。
「たいへんです! 竜王が大波をたてて、人びとをおし流そうとしています」
波は、いまにも家のそばまでとどきそうです。
そのとき、いつかたすけてやったおじいさんが、とつぜんあらわれていいました。
「あの竹でつくった笛をふきなさい。休まずに、ふきつづけなさい」
笛ふきはすぐさま、笛をふきはじめました。
ピュー、ピュー、ピュー。
けれども、波はよわまりません。
もう、家の中までおしよせてきました。
ピュー、ピュー、ピュー。
笛ふきは、休まずにふきました。
そのときには、三人はもう、海の水につかってしまいました。
お姫さまはいそいでもう一本の笛をとりだすと、笛ふきと力をあわせて、
ピュー、ピュー、ピュー。
と、ふきだしました。
すると、うちよせてくる波がすこしずつひきはじめました。
二人はかたをならべて笛をふきながら、一歩一歩前へすすみました。
するとそれにつれて、波が一歩一歩、あとヘひいていきました。
二人が岸辺まですすむと、波も岸辺までひきました。
二人が岸辺の岩の上に立ってふきつづけると、波もひいていきました。
なおも、二人はふきつづけました。
くちびるがいたくなり、のどがかわいてきましたが、二人がちょっとでも休むと、たちまち波がおしよせてくるので、笛ふきとお姫さまはまた、元気をふるいおこしてふきました。
笛の音がひびきわたると、海の波はすぐにひいていきます。
こうして二人は、いく日もいく晩もふきつづけました。
はまの漁師たちは、二人があまりいつまでもふいているので、しんぱいになりました。
みんな集まってきて、
「大丈夫か?」
と、声をかけました。
けれども二人はふりむきもしないで、ふきつづけています。
みんなは、もっと近よってみて、
「あっ!」
と、おどろきました。
それは、笛ふきとお姫さまではなく、たくさん穴のあいた二つの岩が、塩風にピュー、ピューと、なりひびいているのでした。
漁師たちはおどろいて、笛ふきの家をさがしました。
ところが、その家はかげもかたちもありません。
ある朝のことでした。
一人の若者が、みんなにいいました。
「おれは、笛ふきとお姫さんとお母さんとおじいさんが、白い雲に乗っていったのを、この目で見たぞ。たのしそうに手をふりながらいったんだ」
これを聞いて、みんなは喜びました。
はまべの岩は、昼も夜もピュー、ピューと、笛の音をひびかせています。
漁師たちは、この二つの岩を『笛ふき岩』と、よぶようになりました。
いまでも海南島の浜辺には、人のかたちをした岩が二つならんでおり、その岩に風がふきつけると、ピューピューと美しい笛の音がひびくのです。
おしまい