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2008年 8月27日の新作昔話

逆立ち幽霊

逆立ち幽霊
沖縄県の民話沖縄県情報

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音声 創作活動のサイト 『Web団 零点』

 むかしむかし、那覇(なは)の町に、みえ橋という橋があって、その橋のたもとに一軒のアメ屋がありました。
 ある夏の夕ぐれ、その日は朝から、しとしとと雨がふりつづいていました。
「ああ、こんな日にアメを買いに来る人はいないだろう。少し早いが、店じまいをしよう」
 アメ屋のおじいさんは、ひさしぶりに早く店をしめました。
 そして一人で、のんびりとお茶を飲んでいると、
 トントン、トントン
と、雨戸が鳴りました。
「おや、風がひどくなってきたかな?」
 おじいさんは、そう思いましたが、
 トントン、トントン。
 今度ははっきりと、戸をたたく音がしました。
「どなたじゃな? もう店じまいをしたから、また明日にしてくださらんか」
 トントン、トントン。
 何度も何度も戸をたたくので、おじいさんはしかたなく戸口を開けました。
 すると外には、白い着物をきた女の人が、雨にぐっしょりとぬれて立っていました。
「すみません。アメを少し分けてくださいな」
 女の人は、細い声でいいました。
「これはこれは。せっかく買いに来てくれたのに、すぐに出なくてごめんよ。ささ、どれでも持って行ってください」
 おじいさんは、アメを紙につつんで差し出しました。
「よかった。これでうちの子も喜びます。ありがとうございました」
 女の人はニッコリ笑うと、お金をおじいさんにわたしました。
「では、気をつけてお帰りよ」
「はい」
 女の人は深くおじぎをすると、雨の中へ消えて行きました。
 それからも時々、女の人はアメを買いに来るようになりました。
 でも、四回、五回と続くうちに、おじいさんはあることに気がつきました。
 それは、女の人がアメを買いに来るのは決まって夕暮れ時で、それも人目をさけてやって来るのです。
「もしかして」
 おじいさんは大急ぎで、お金を入れたはこを持って来ました。
 そしてお金を調べていたおじいさんは、
「わーっ!」
と、腰を抜かしてしまいました。
 なんとお金の中から、半分やけた紙銭(かみぜに)が出てきたのです。
 紙銭というのは、死んだ人が死の旅の途中で使うようにと、紙でつくったお金の事です。
 おじいさんが紙銭を持って、ブルブルとふるえていると、
 トントン、トントン
と、雨戸をたたく音がしました。
「来たな」
 おじいさんは、そーっと戸を開けました。
 するとやはり、外には白い着物の女の人が立っていました。
「おじいさん、アメをくださいな」
 女の人は、細い声で言いました。
「はい、ではこれを」
 おじいさんがふるえながらアメを差し出すと、女の人はアメの包みを大切そうに胸にかかえて帰って行きました。
「こわいが、あとをつけてみるか」
 おじいさんは女の人のあとを、つけて行くことにしました。
 女の人は山道を進んでいき、山の中にあるお墓にたどり着きました。
「やはり、あの女は幽霊だな」
 おじいさんが息を殺して見ていると、女の人はチラリとおじいさんの方を振り向いて、そのままお墓の中に消えていきました。
 おじいさんが、そのお墓の前まで行ってみると、
「オギャー! オギャー!」
と、お墓の中から、赤ん坊の泣き声が聞こえてきたのです。
「うわーっ!」
 びっくりしたおじいさんは、すぐに町へ帰ると、見てきたことをみんなに知らせました。
 そしてお墓の持ち主とお坊さんを連れて、お墓の前にあつまりました。
 さっそくお墓の石をとりのぞき、中をのぞいてみてびっくり。
 なんと赤ん坊が、アメをしゃぶりながら死んだお母さんのそばにいるのです。
 お母さんの顔は、たしかにアメを買いに来た女の人でした。
 お墓の持ち主の話では、この女の人は赤ん坊を生む前に、病気で死んだとのことです。
 きっと、葬式がおわってお墓の中へ入れられたあとで、この赤ん坊を生んだのでしょう。
 お坊さんは念仏をとなえると、女の人の足をひもでゆわえました。
「もう、アメを買いに行かなくてもいいんだよ。赤ん坊は我々が育てるからね。お前さんの両足をしばっておくから、もう出て来てはいけないよ」
 そしてみんなも、女の人の成仏を手を合わせて祈りました。
 さて、それからしばらくたった、ある夕暮れ時。
 アメ屋のおじいさんが、店をしめて休んでいると。
 トントン、トントン。
 トントン、トントン、
と、戸をたたく音がしました。
「すみません、アメをくださいな」
「はいはい、ちょっとお待ちを」
 おじいさんが戸を開けて見ると、あの白い着物をきた女の人が逆立ちをして立っていました。
 お坊さんに両足をひもでしばられたので、逆立ちのままやってきたのです。
「ひぇーーっ!」
 おじいさんは腰を抜かして、言葉が出ません。
「すみません、アメをくださいな」
 逆立ちの女の人がもう一度言ったので、おじいさんは何とかアメを差し出すと、女の人はアメの包みを大切そうに胸に抱えて、やみの中へきえて行きました。
 アメ屋のおじいさんの知らせを受けて、お墓の持ち主とお坊さんは、それから何度も女の人の供養をしましたが、それから何年もの間、女の人はおじいさんの店にアメを買いにきたそうです。

おしまい

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