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 2011年 12月26日の新作昔話
 
  
 ほら吹き男爵 チーズの島
 ビュルガーの童話 → ビュルガーの童話について
  わがはいは、ミュンヒハウゼン男爵(だんしゃく)。みんなからは、『ほらふき男爵』とよばれておる。
 今日は、ミルクの海の続きを聞かせてやろう。
 
 ミルクの海を突き進んで島に上陸してみると、驚いた事にこの島は、全てがチーズで出来ていた。
 生えている木にしろ、ころがっている石にしろ、住民の家にしろ、みんなチーズで出来ているのだ。
 そう言えば、チーズはミルクから出来ている。
 この島のまわりがミルクの海だったのは、おそらくこのチーズの島から、ミルクが溶け出したためだろう。
 「長旅にチーズのごちそうとは、うれしいな」
 わがはいたちは、さっそくチーズの木をかじり、チーズの石ころを食べた。
 さすがに家は遠慮したが、実は食べても問題はなかった。
 なぜならここのチーズは、いくら食べても一夜のうちに元通りになってしまうからだ。
 「これでバンでもあったら、文句はないのだが。いくらなんでも、そこまでは都合良く」
 しかし探してみると、本当にパンがあった。
 この島には人の背丈よりも大きな麦が生えていて、その麦の穂の中に焼きたてのほかほかしたパンが入っていたのだ。
 この麦も、いくら食べても明日の朝には元通りになる便利な麦だった。
 チーズとパンとくれば、お次はぶどう酒だ。
 「これで、ぶどう酒があればなあ」
 と、一人の船員が言った。
 「ぜいたくを言うな。いくらなんでも、ぶどう酒までは」
 と、わがはいが、船員をたしなめたとたん、
 「温泉があるぞ!」
 と、船長が声をあげて、向こうを指さした。
 なるほど、向こうの岩かげから、ふわりふわりと湯けむりがあがっている。
 さっそく湯けむりを目指して行ってみると、なんとそこはココアの温泉で、子どもたちが楽しそうに泳いでいたのだ。
 どの子どもも、こげ茶色の体をしているが、きっとココアの色がしみついてしまったのだろう。
 「このさい、ココアでもいい。われわれも入ろう」
 わがはいたちも、さっそく服を脱いで入ろうとしたら、
 「大人は、向こうだよ」
 と、子どもたちが教えてくれた。
 行ってみると、そこにはぶどう酒の温泉があった。
 「なんと、白も赤もロゼもあるではないか」
 わがはいは、さっき船員をたしなめた事を恥なければならなかった。
 話の展開からして、ぶどう酒も出てくるのは当然だからだ。
 それが、お約束というものだ。
 ともかく、わがはいたちはぶどう酒の温泉で、飲んだり、泳いだりと、大いに楽しんだ。
 もちろん、このぶどう酒も、いくら飲んでもへらなかった。
 まったく、ここは不思議なところである。
 
 今日の教訓は、『人をたしなめる時は、先の展開をよく考えてからにしよう』だ。
 何事にも、『お約束』というものがある。
 まさかと思っている事が、現実に起きたりするものだ。
 この『お約束』を知っておかないと、わがはいのように後で恥をかく事になる。
 
 さて、チーズの島の話はまだ続くが、続きは次の機会に話してやろうな。
 おしまい
 
  
 
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