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2015年1月19日の新作昔話

三人の願い事

三人の願い事
岩手県の民話岩手県の情報

 むかしむかし、木綿売りが山道を歩いていると、壁塗りと木こりの二人に出会いました。
 話しをすると、三人とも仕事がうまく行かずに困っているのです。
「何か、うまい手はないものかね」
 木綿売りが言うと、壁塗りが言いました。
「実は、さっきふもとの茶店で聞いたのだが、峠の神さまは、どんな願いでも叶えてくれるそうだ」
「そいつはありがたい。駄目でもともと、さっそく頼んでみよう」
 そこで三人が山道を登って行くと、峠に古くて小さなほこらがありました。
 さっそく木綿売りが、手を合わせて言いました。
「木綿の手持ちが無くて困っています。どうか、計れば計るほど、木綿が長くなりますように」
 続いて壁塗りが、手を合わせて言いました。
「腕が未熟で、塗った壁がすぐに落ちてしまいます。どうか壁を塗ったら、ぴたっとくっつきますように」
 最後に、木こりが手を合わせて言いました。
「近頃は年で、木を切るのが大変です。どうかパンと叩くだけで、ポキリと木が折れますように」

 さて、峠を下ってどんどん行くうちに、三人ともすっかりくたびれてしまいました。
「どうだね、この辺りで、ひと休みしないか」
 木綿売りが、言いました。
「いいとも。ちょうど、ひと休みしたいと思っていたところだ。」
 壁塗りと木こりも賛成して、足を止めました。
 するとうまいぐあいに、大きな丸太ん棒が転がっています。
 三人は丸太ん棒に座って、自分の願い事の事を考えていました。
「神さまは、本当にわしらの願いを叶えてくれるかな」
「ああ、叶えてくれればいいが」
「よし、一つ試してみよう」
 木綿売りが、荷物の中から木綿を出して広げました。
 すると、どうでしょう。
 重ねてあるところを広げるたびに、木綿はどんどん長く伸びていくのです。
「こいつはありがたい。願いが叶ったぞ!」
 木綿売りは、どんどん木綿を引っ張りました。
「へえ、こいつは驚いたな。どれ」
 壁塗りも木こりも、木綿のはしをつかんで引っ張りました。っぱりました。
 そして夢中で引っ張っていると、どこからか一匹のアブが飛んできて、壁塗りのほっぺたにとまりました。
「こいつめ!」
 壁塗りは木綿から手を離すと、パチンとほっぺたを叩きました。
 するとその途端、手がほっぺたにくっついてしまったのです。
 押しても引っ張っても、どうしても手が離れません。
「何だ、何を遊んでいやがる」
 見ていた木こりは、おかしくなってお腹を抱えて笑いました。
 そして思わず、右手で自分のひざをパンと叩いてしまったのです。
 するとポキリという音がして、木こりのひざの骨が折れてしまいました。
「あいてててて!」
 木こりは、その場に倒れると、動けなくなりました。
 困った事になってしまった二人を見て、木綿売りが言いました。
「お前さんたちには気の毒だが、仕事の約束があるので失礼するよ」
 そして木綿売りが木綿をたたもうとしたら、そのたびに木綿が長くなってしまい、どうする事も出来なくなったそうです。

おしまい

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