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2016年 8月 1日の新作昔話

はなと沢ガニ

はなと沢ガニ

 むかしむかし、ある長者の屋敷に、はなという働き者の娘が住み込みで働いていました。
 長者の屋敷の近くにきれいな川があり、そこにはたくさんの沢ガニがいます。
 心優しいはなは、沢ガニに米のとぎ汁を朝と夕方にあげていました。
「カニさんたち、さあ、どうぞ」
 はなが声をかけると沢ガニたちは、カシャ、カシャ、カシャ、カシャとうれしそうに集まって来るのでした。

 ある夜の事、仕事を終えたはなが自分の部屋に戻ると、どこから忍び込んだのか男の人がいました。
 男の人は背筋が寒くなるような冷たい目で、はなをじっと見つめます。
「あの、どなたですか?」
「・・・」
「どこからいらしたのですか?」
「・・・」
「私に何のご用ですか?」
「・・・」
 はなが尋ねても男の人はまゆ毛一つ動かさず、じっと座ってはなを見つめています。
 そして一晩中、はなを見つめて、夜が明けると音もたてず部屋を出て行きました。
 はなは恐ろしくて、一睡も出来ませんでした。
 そして次の夜も、その次の夜も、男の人は、はなの部屋に来るようになりました。

 気味が悪くなったはなは、長者に頼みました。
「長者さま。
 どうやら私は、魔物に見込まれたようです。
 このままでは、恐ろしくていられません。
 どうか観音堂に、七日七晩おこもりをさせてください。
 観音さまに、魔物から守っていただきとうございます」

 おこもりとは、神社やお堂にこもって、身についた悪い物をはらうことです。

 話を聞いた長者は、はなが観音堂に行くことを許しました。
「気をつけてお行き。七日七晩たった朝、迎えに行くから」
 長者は、はなを門の所まで見送ってくれました。

 屋敷を出たはなは、観音堂へ行く前に川へ行きました。
「カニさんたち。わたしは魔物に見込まれてしまったので、これから七日七晩、観音堂におこもりをします。そのあいだは米のとぎ汁をあげる事は出来ないけれど、元気にしていてね」
 沢ガニたちに別れを告げたはなは、観音堂に行っておこもりを始めました。

 観音堂にこもって、七日目の夜になりました。
「朝が来たら、もう大丈夫。観音さま、ありがとうございます」
 今日まで何事もなく無事に過ごせたはなが、観音さまに手を合わせたときです。
「ここを開けろ!」
 外から男の人の声がしたかと思うと、観音堂がギシギシとゆれ始めました。
「開けろ! 開けろ! 開けぬのなら、お堂ごとつぶしてしまうぞ!」
 地の底から響くような声がして、観音堂がグラグラと大きくゆれます。
 立っている事が出来ないはなは、床板にしがみついて祈りました。
「助けてください。助けてください」
 観音堂の柱がしなり、天井板がバラバラとはずれて落ちてきます。
(ああ、もう、だめだわ!)
 はなが思ったその時、
 カシャ、カシャ、カシャ、カシャ
と、小さな音がたくさん聞こえました。
 そして、
 ドーン!
と、大きな音がしたかと思うと、カシャ、カシャ、カシャ、カシャという音もしなくなり、あたりは急に静かになりました。
 はなが目を開けると、観音堂のこわれた天井板の割れ目から朝日が差し込んでいました。
「夜が明けたんだわ」
 はなが外へ出ると、長者が下男たちを連れてやって来ました。
「おーい、はな。大丈夫か? ・・・あっ!」
 長者がびっくりして、息をのみました。
 そしてはなも、長者が見つめている物を見てびっくり。
 なんとそこには、人を丸のみできるような大蛇が横たわって死んでいたのです。
 そして大蛇の大きなうろこの間の一枚一枚に、沢ガニたちがはさまれて死んでいたのでした。
 はなはポロポロと涙を流して、沢ガニたちに手を合わせました。
「カニさん。カニさんたちが、ヘビをやっつけてくれたのね。自分の命をぎせいにして」
 はなは死んだ沢ガニたちを大蛇のうろこからていねいに集めると、川のほとりに沢ガニたちのお墓を作ってやりました。

おしまい

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