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2016年 9月12日の新作昔話
泥棒の鳴き真似
江戸小話 → 江戸小話
むかしむかし、あるお寺に泥棒が入りました。
天井裏に人の気配を感じた和尚さんが、寝ている小僧さんに言いました。
「これ、小僧。泥棒じゃ。早く追い出せ」
すると小僧は起きるのが邪魔くさくて、和尚さんに言いました。
「あれは泥棒ではありません。きっと、犬でしょう」
すると泥棒が、
♪ワン、ワン
と、犬の鳴き真似をしました。
「ほらね、犬だったでしょう」
「しかし、犬が天井裏にいるのはおかしいぞ。やっぱり泥棒ではないのか?」
「では、ネコでしょう」
すると泥棒は、あわててネコの鳴き真似をしました。
♪ニャーオ、ニャーオ
「ほらね、やっぱりネコだったでしょう」
「うむ、確かにネコの鳴き声だ」
さて、それからしばらくすると、泥棒は天井裏から下りてきて、和尚さんと小僧さんが寝ている隣の部屋で金目の物はないかとタンスを開け始めました。
それに気づいた和尚さんは、再び寝ている小僧さんに言いました。
「ほれ、小僧。やっぱり泥棒だぞ。犬やネコが、タンスを開けたりするものか」
すると小僧さんは、眠い目をこすりながら言いました。
「あれはカラスでしょう。カラスは頭が良いから、タンスくらい開けますよ」
すると泥棒が、
♪カー、カー
と、カラスの鳴き真似をしました。
「ほらね、カラスだったでしょう」
「しかし、鳥目のカラスが夜に来るのはおかしいぞ」
「それでは、あれはきっと化け物でござりましょう」
すると泥棒は、
(化け物の鳴き声とは、どんなんだろう?)
と、考えて、こう言いました。
♪ヒュー、ドロドロドロ。うらめしやー。
それを聞いた小僧は、思わずふとんから頭を出して言いました。
「泥棒さん、それは幽霊だよ」
すると泥棒は、
「あっ、すみません。間違えました」
と、言って、何も盗らずに逃げていったそうです。
おしまい
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