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福娘童話集 > きょうの新作昔話 >ガラスビンの中の悪魔
2017年 5月 1日の新作昔話
ガラスビンの中の悪魔
グリム童話 → グリム童話とは
むかしむかし、とても貧乏な木こりの親子がいました。
木こりの父親はとてもひどい人で、何かあるとすぐに息子を殴ります。
ある日、息子は森の木の根元の小さな穴に、カエルが閉じ込められているガラスビンを見つけました。
息子がガラスビンを拾い上げると、中のカエルが息子を見つめて、
「助けてくれー! 出してくれー!」
と、叫びます。
(人間の言葉をしゃべるカエルなんて、きっと森の化け物に違いない)
そう思った息子は、カエルの入ったガラスビンを再び木の根元の穴に戻そうとしました。
「まっ、待て! 頼む、頼むから穴に戻さないでくれ! お願いだ、ここから出してくれー! 出してくれたら、何でも言う事を聞くから」
カエルがあまりにも必死に頼むので、息子は仕方なくガラスビンのフタを開けました。
するとビンの中からカエルが跳び出して、ムクムクと大きくなりながら醜い悪魔に姿を変えたのです。
「ヒャーーッ!」
息子はあわてて逃げようとしましたが、
「バカめ、逃がすと思うか!」
悪魔は鋭いツメで、息子の足を切り裂きました。
足を切られた息子は、逃げる事が出来ません。
「さて、久しぶりの食事に、お前を食ってやろう」
そう言って大口を開ける悪魔に、息子は言いました。
「この嘘つき! 何でも言う事を聞くと言っただろ! 僕を食うのは構わないが、その前に僕の願いを聞いてくれ!」
「ふむ、確かに約束をしたな。いいだろう、何が願いだ? 言っておくが、助けてくれという願いは聞かんぞ」
「いや、そうじゃない。体の大きなお前が、この小さなビンから出てきた。自分の目で見た事だが、今でも信じられない。そこでもう一度、この小さなビンに入って、再び出てくる姿を見たいんだ」
「なんだ、そんな簡単な事か」
化け物はそう言うと、小さなビンに飛び込んで元のカエルの姿になりました。
「今だ!」
息子はすかさず、ビンのフタをしました。
「ひどい!」
文句を言うカエルに、息子が言いました。
「何がひどいものか! お前こそ、僕を殺そうとしたじゃないか!」
「そ、それはそうだが」
「もうお前を信用しない。誰にも見つからない様に、大きな穴を掘って埋めてやる」
「うえー! それだけはご勘弁を! 改心する。もう人は襲わない。それに魔法の布をあげるから、どうか助けてくれー!」
「・・・分かった。約束は守れよ!」
息子が仕方なくビンのフタを開けると、出てきた悪魔は息子に頭を下げて汚い布を渡しました。
「これは魔法の布です。これで体をこすると傷は治るし、鉄をこすると鉄は銀に変わります」
そこで息子は悪魔に切り裂かれた自分の足の怪我を、その布でこすってみました。
するとたちまち、足の傷が治りました。
「わあ、本当だ!」
喜ぶ息子に悪魔は何度も何度も頭を下げると、どこかへ消えてしまいました。
家に帰った息子は、さっそく魔法の布で鉄のオノをこすってみました。
するとみるみる、鉄のオノが銀のオノに変わります。
「お父さん、このオノを見てください!」
息子はうれしそうに、銀のオノを父親に見せました。
「うむ、オノの色が変わったな。良く切れるように磨いたのか?」
父親はオノを手に取ると、切れ味を試そうと近くにあったまきを割ってみました。
すると銀は鉄より柔らかいので、オノの刃がぐにゃりと曲がってしまいました。
これを見て、父親は息子を殴りつけました
「バカヤロウ! こんなオノでは仕事にならんだろ! オノを弁償するまで、家に帰ってくるな!」
殴られた息子は、仕方なく銀のオノを持って家を出ました。
(ダメだ。あの人は、銀の価値が分からないんだ)
息子は町へ行くと、飾り屋の主人に言いました。
「この銀のオノを売りたいのですが」
「銀のオノ? ・・・これはすごい! このオノには、四百ターレルの価値がありますよ」
「本当ですか!」
「ああ、本当だとも。・・・でもねえ、うちにはそんな大金はありませんよ」
「それでは、持ち合わせ分だけでけっこうです」
息子は銀のオノを売って、三百ターレルのお金を手に入れました。
息子は家に帰ると、父親に尋ねました。
「あのオノのお代は、いくらですか?」
父親が一ターレルと六グロッシェンと答えると、息子は百ターレルを父親に渡して言いました。
「僕は家を出ます。お父さんはこれで鉄のオノを買い、残りのお金で楽に暮らしてください」
その後、息子は魔法の布を使って、どんな怪我でも治すお医者さんになりました。
おしまい
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