| 福娘童話集 > きょうの新作昔話 >プリンの塩加減 2024年9月30日の新作昔話
 
  
 若返るのをあきらめたお母さん
 ハワイの昔話 → アメリカの情報
  ハワイの言い伝えでは、人間は年を取るとヘビやトカゲの様にすっぽりと古い皮を脱いで、若返る事が出来たそうです。
 ある日の事、一人のお母さんが、自分の顔を鏡で見てがっかりしました。
 
  「まあ、わたしったらいつの間にか、すっかりしわだらけだわ。前に若返ったのはずいぶんと前だから、もうそろそろ古い皮を脱いで若返らないと」 
   お母さんは子どもたちが寝ているすきに、そっと川へ出かけました。そしてきれいな川に入って、服を脱ぐように全身の皮をすっぽりと脱ぎすてたのです。
 
   こうしてお母さんは、すっかり若返ってきれいな女の人になりました。 
          お母さんの脱ぎ捨てた古い皮は川のくいに引っかかって、ゆらゆらと水に浮いています。「ああ、さっぱりした。お肌もつるつる! 若返るって、本当に素晴らしい事だわ」
 
   きれいになったお母さんは、歌を口ずさみながら子どもたちのいる家へ帰りました。
 「ただいま。ほらお母さん、とてもきれいになったでしょう」
 
   ところが子どもたちは、若返ったお母さんを見てびっくりです。「あれ? 知らない人が来たよ」
 「どこのお姉ちゃんだろう?」
 それを聞いたお母さんは、あわてて言いました。
 「何を言っているの? 若返ったけど、お前たちのお母さんだよ」
 けれど子どもたちは、首をふってさけびました。
 「ちがうよ! お母さんはもっと年を取っていて、しわがいっぱいあるんだ」
 「そうだよ。そんなにつるつるの肌のお姉ちゃんじゃない!」
 それを聞いていた末っ子が、泣き出しました。
 「うぇぇ~ん、うぇぇ~ん。お母さんが、お母さんがいないよう。お母さんがぼくたちをすてて、どこかへ行っちゃったよ」
 「だから、わたしがお母さんだよ。お前たちを産んでからは始めてだけど、お母さんは古い皮を脱いで若返ってきたんだってば」
 
   でも子どもたちは、信じようとはしません。すっかり困ってしまったお母さんは、家を飛び出すとさっきの川へ引き返しました。
 
 「ええーと、わたしの古い皮、古い皮はどこだろう?」
 
   探してみると、古い皮はまだくいに引っかかったままでした。「あったわ。一度脱いだ皮を再び着ると、もう二度と皮を脱ぐ事は出来ない。・・・でも、あの子たちに嫌われるよりましだわ」
 
   お母さんは川の中に入ると、古い皮をひろってすっぽりと着込みました。「さあ、これで子どもたちも、安心するでしょう」
 
 元の姿に戻ったお母さんが家に帰ると、子どもたちがうれしそうにかけ寄って来ました。
 
  「お帰りなさい、お母さん」「お母さん、今までどこへ行っていたの?」
 「そうだよ。さっき変なお姉ちゃんがやって来て、自分の事をお母さんだなんて言うんだよ」
 「そうなの。でも、安心しておくれ。お母さんは二度とどこへも行かないし、そのお姉ちゃんも二度と来ないからね」
 おしまい   
 
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