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 1月9日の世界の昔話
 
  
 ハリネズミのハンスぼうや
 グリム童話 →グリム童話の詳細
  むかしむかし、お金も土地もたくさんもっている、お金持ちのお百姓(ひゃくしょう)がいました。このお百姓はお金持ちなので、ほしいものはなんでももっていましたが、ざんねんなことに子どもがいませんでした。
 そのために、ほかのお百姓たちはお金持ちのお百姓をからかって、
 「どうして、おまえには子どもがないんだね?」
 などときくのでした。
 それでお百姓は腹をたててしまい、うちヘかえってくると、
 「どうしても子どもがほしい。たとえ、ハツカネズミだってかまやしない」
 と、いったのです。
 するとすぐに、おかみさんに赤ちゃんができました。
 ところがその赤ちゃんは、体の上のほうがハリネズミで、下のほうが人間なのです。
 おかみさんはそれを見ると、おどろいていいました。
 「それ、ごらんなさい。あんたはこの子に、とんだのろいをかけてしまったよ」
 すると、お百姓はいいました。
 「そんなことをいったってしかたがない。とにかくこの子に洗礼(せんれい→キリスト教の信者になる儀式)をうけさせて、名まえをつけてやらなくちゃならん。だがこんな子じゃ、だれにも名づけ親をおねがいするわけにいかんな」
 「この子には、『ハリネズミのハンス』と名をつけるほかありませんよ」
 「そうだな。そうしよう」
 さて洗礼がすむと、牧師(ぼくし)さんはいいました。
 「この子には針があるから、ふつうのベッドではだめですぞ」
 そこでストーブのうしろにワラをしいて、その上にハリネズミのハンスはころがされました。
 それからハンスは、お母さんのおっぱいをのむこともできません。
 そんなことをすれば、針でお母さんをさしてしまうからです。
 こんなふうにして、ハンスは八年もストーブのうしろにころがっていました。
 最初はハンスをかわいがっていたお父さんもうんざりしてしまって、いっそ死んでくれればいいと、ねがっていました。
 さてあるとき、町に市がたちました。
 そこでお百姓は市にでかけようとして、おかみさんにたずねました。
 「なにか、買ってくるものがあるかね?」
 「ええ、肉をすこしと、パンを二、三本」
 と、おかみさんはいいました。
 つぎに下女にききますと、上ぐつと、ししゅうのしてあるくつ下がほしいということでした。
 さいごに、お百姓はききました。
 「ハリネズミのハンスぼうや、おまえはいったいなにがほしいな?」
 「とうちゃん、ふくろ笛(→風笛ともいい、笛と革ぶくろをくみあわせた物で、足でふんで音をだす楽器)を買ってきてね」
 さて、お百姓はうちにもどってくると、おかみさんには買ってきた肉とパンをやり、下女には上ぐつとししゅうのあるくつ下をやってから、さいごにス卜ーブのうしろへいって、ハリネズミのハンスに、ふくろ笛をやりました。
 すると、ふくろ笛をもらったハリネズミのハンスはいいました。
 「とうちゃん、おねがいだからかじ屋さんヘいって、オンドリのコッコの足に金ぐつをうってもらってよ。そしたらコッコにのってどこかヘいって、もうかえってこないよ」
 「なに、でていってくれるのか!」
 お父さんは、これでハリネズミのハンスをやっかいばらいできると思って、大よろこびです。
 さっそくオンドリの足に、金ぐつをうってもらいました。
 そして金ぐつがうちおわると、ハリネズミのハンスはオンドリにまたがって、さっさとでていきました。
 そして、ブタとロバもつれていきました。
 これは、村はずれの森のなかでかうつもりだったのです。
 やがて森にはいると、ハンスはオンドリにのったまま高い木の上にあがり、そこにすわってロバとブタの番をしました。
 そうやって、何年も何年もそこにすわって見はりをしているうちに、ブタとロバのむれはだんだんふえて、たいへんな数になりました。
 ところでハンスは、ひまさえあればふくろ笛をふいてあそびましたが、その音楽はとてもたのしいものでした。
 さてあるとき、道にまよったひとりの王さまが、そこをとおりかかって、この音楽を耳にしました。
 「おや? なんてたのしい音楽なのだ。だれか、この音楽がどこからきこえてくるのかつきとめてこい」
 そこで家来たちが見つけたのは、木の上にちょこんとすわっている、一匹の小さい動物だけでした。
 その動物というのはオンドリみたいなもので、その背中に一匹のハリネズミがすわって、それが音楽をやっているのでした。
 それをきくと王さまは、おとものものにいいつけて、ハリネズミがなぜそんなところにすわっているのか、それからまた、王さまの国ヘかえる道を知っていないかどうか、たずねさせました。
 するとハリネズミのハンスは、木からおりてきていいました。
 「王さまがお城へかえって一番さいしょにであったものを、ぼくにくれると約束して、それを書きつけにして書いてくださるなら、道をおしえてあげましょう」
 王さまは、考えました。
 (どうせハリネズミのハンスなんかには、文字なんてわかりゃしないのだから、なにを書いたってかまうものか)
 そこで王さまはペンとインキをとって、なにやら書きつけました。
 そしてそれができあがると、ハリネズミのハンスが道をおしえてくれたので、王さまはぶじに城ヘかえりつくことができました。
 そして王さまのお姫さまが、父親の王さまを遠くから見つけると、うれしくてたまらず、おむかえにかけだしてきてキスをしたのです。
 王さまはハリネズミのハンスのことを思いだして、いままでのできことを話してきかせました。
 じぶんが森で道にまよったこと、なんだかヘんてこな動物に、じぶんが城ヘかえって一番さいしょにであったものをやるという証文(しょうもん)を書かせられたこと、その動物は、まるでウマにのるみたいにしてオンドリの背中にのって、おもしろい音楽をやっていたこと、それからまた、どうせハリネズミのハンスなんか字が読めないのだから、そんなものはけっしてやらないと書いてやったことなどを。
 そうきくと、お姫さまはよろこんで、
 「それはよかったわ」
 と、いいました。
 なにしろお姫さまは、ハリネズミのところへお嫁になんかいきたくはなかったからです。
 ハリネズミのハンスは、あいかわらずロバとブタの番をしては、木の上にすわって、ふくろ笛をふいていました。
 するとまたベつの王さまが、道にまよってうちヘかえることができなくなってしまいました。
 それほど、この森は大きかったのです。
 王さまは、やっぱり遠くから音楽がきこえてくるのをきいて、家来たちに、あれはなんの音か見てまいれといいつけたのです。
 そこで家来たちが木の下にきてみますと、オンドリが枝にとまって、その背中にハリネズミのハンスがすわっているのでした。
 家来たちは、ハンスにたずねました。
 「おまえさんはそんな高いところで、なにをしているんだね?」
 「おいらはおいらのブタとロバの番をしてるのさ。ところで、あんたはなんのご用ですか?」
 家来たちは、じぶんたちが道にまよって、王さまの国へかえれなくなってしまったことを話して、
 「どうか、道をおしえてくれまいか」
 と、たずねました。
 するとハリネズミのハンスは、オンドリにのったまま木からおりてきて、年とった王さまにいいました。
 「王さまがこれからお城ヘおかえりになって、お城のまえで、一番はじめにであったものをわたしにくださるなら、道をおしえてあげましょう」
 「よろしい。約束しよう」
 と、王さまはハリネズミのハンスに、たしかにのぞみのものをとらせるという書きつけを書いてやりました。
 その書きつけができると、ハンスはオンドリにのって道案内をしたので、王さまはぶじに国へかえりつきました。
 王さまがお城の中庭につきますと、みんなのよろこびようはたいヘんなものでした。
 さて、王さまには美しいお姫さまがひとりいました。
 お姫さまは王さまのほうヘ走ってくるとキスをして、こんなに長いこと、どこにいっていたのかとたずねました。
 そこで王さまは、今までのことを話しました。
 「わしは道にまよって、もうすこしでお城にかえれなくなるところだった。ところがある大きな森のなかを馬車(ばしゃ)でとおっていたとき、半分はハリネズミみたいで半分は人間みたいなものが、オンドリにまたがって高い木の上にすわって、おもしろい音楽をやっていてね。そいつがたすけて道をおしえてくれたのだよ。だが、そのかわりにわしは、お城にかえったらさいしょにであったものを、その男にやると約束したんじゃ。ところが、さいしょにあったのがおまえなのだ。ほんとうにこまったことになったものじゃ」
 するとお姫さまは、
 「お年をめしたお父さまのためですもの、そのものがむかえにきましたら、わたしはよろこんでそのものといっしょにまいりますわ」
 と、王さまにお約束したのです。
 ところでハリネズミのハンスは、あいかわらずブタの世話をしていました。
 ブタはドンドン子どもを産んで、とうとう森じゅうがいっぱいになるほど、その数がふえました。
 そこでハリネズミのハンスは、もはや森に住むのがいやになり、お父さんにたのんで村の人たちに、
 「村じゅうの家畜小屋をあけておいてください。おいらがどっさりブタをつれていきますからね」
 と、つたえてもらうことにしました。
 それをきくと、お父さんはかなしくなってしまいました。
 なにしろハリネズミのハンスは、とうのむかしに死んでしまったものと思ってよろこんでいたからです。
 そんなことにはおかまいなく、ハリネズミのハンスはオンドリにまたがると、ブタを追いたてて村へはいっていきました。
 村人は大よろこびです。
 それがすむと、ハリネズミのハンスはいいました。
 「とうちゃん、おいらのコッコをもう一度かじ屋ヘつれてって、金ぐつをうってもらっておくれ。そしたらおいらはそれにのって、もう一生もどっちゃこないよ」
 そこで父親はオンドリに金ぐつをうってもらって、これでハリネズミのハンスは二度とかえってこないのだとよろこびました。
 さて、ハリネズミのハンスはオンドリにのると、、はじめの王さまの国をめざしました。
 ところが王さまは、もしオンドリにのってふくろ笛をもっているものがやってきたら、けっしてお城ヘいれぬようにしろと、おふれをだしていたのです。
 いよいよハンスがのりつけますと、みんながハンスにおそいかかりました。
 ところがハンスは、オンドリに乗ったまま飛び上がると、お城の門をとびこえて、王さまの部屋のまどのまえに到着しました。
 そして、大声でどなりました。
 「さあ、約束のものをおくれ。でないと、おまえとおまえの娘の命をとってしまうぞ」
 これをきくと王さまは娘に、
 「どうか、あの男のところヘでていって、おまえとわたしの命をすくっておくれ」
 と、いいました。
 そしてお姫さまに、六頭のウマをつけた馬車や、りっばな家来や、お金や財産やらをやりました。
 お姫さまが馬車にのりますと、ハリネズミのハンスがそのとなりにすわりました。
 王さまは、もう二度と姫を見ることはないだろうと思いましたが、ハリネズミのハンスは都からでてしばらくいくと、お姫さまのきれいな着物をはぎとって、じぶんのハリネズミのハリでお姫さまをさして血だらけにしたうえで、
 「これが、おまえさんたちがうそをついたむくいさ。さあ、とっとといっちまえ、おまえなんかにゃ用はない」
 と、いって、お城ヘ追いかえしてしまったのです。
 さてハリネズミのハンスは、まえに道をおしえてあげた二番目の王さまの国ヘいきました。
 ところがこちらでは、もしもハリネズミのハンスらしい人間がきたら、すぐにお城ヘつれていくようにと手はずをしていたのです。
 さて、ようやく現われたハンスに、お姫さまはビックリしてしまいました。
 なにしろ、あんまりきみょうなようすをしているからです。
 でもお姫さまは、王さまに約束してしまったのだから、しかたがないと考えました。
 そんなわけでハリネズミのハンスは、お姫さまにこころよくむかえられて、やがてそのおむこさんになりました。
 その日の夜、二人はやすもうと思いましたが、お姫さまはハンスのトゲがこわくてなりません。
 でもハンスは、
 「なにもこわがらなくていいんですよ、あなたの害になるようなことはしませんから」
 と、お姫さまにいって、こんどはお年よりの王さまにおねがいするのでした。
 「どうぞ四人の男にいいつけて、おへやの戸のそとで番をして、火をドンドンもやしてください。わたしはハリネズミの皮をぬいで、これをベッドのまえにおきます。そのときに四人の男は、すばやくその皮を火のなかになげこんで、それがすっかりもえつきるまで、番をしてくれなくてはいけません」
 さて、ハンスはハリネズミの皮をぬいで、ベッドのまえにおきました。
 とたんに男たちがすばやくその皮をつかんで、火のなかになげこみました。
 そしてその皮がもえつきると、ハンスはすっかり人間のかたちになって、べッドのなかにねていたのです。
 でも、そのからだは焼けこげたようにまっ黒でした。
 王さまは、おかかえのお医者に使いをだしました。
 お医者がハンスのからだを薬草の入った油であらうと、ハンスのからだは白くなって、美しい若者になりました。
 お姫さまは、それを見て大よろこびです。
 あくる朝、二人の結婚式をおこない、ハリネズミのハンスは、年とった王さまから国をゆずりうけたのです。
 それからいく年かたって、ハンスはお妃(きさき)をつれて父親のところをたずねて、
 「わたしはあなたの息子です」
 と、名のりました。
 ところが父親は、
 「わしには息子はひとりもない、ひとりあるにはあったが、それはハリネズミみたいにトゲがはえていた子で、それもどこかヘいってしまった」
 と、いうのです。
 そこでハンスは、
 「わたしがその子ですよ」
 と、いいました。
 年とった父親は大よろこびして、いっしょに息子の国ヘいきました。
 おしまい   
 
 
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