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第102話
空飛ぶ木馬
中国の昔話 → 中国の国情報
むかしむかし、大工とかじ屋が言い争いをはじめました。
「腕が良いのは、何と言ってもわしの方さ」
「いやいや、わしの方が上だよ」
「バカをいえ! わしの腕前を知らないな」
「なにを! きさまこそ」
二人の言い争いは半日も続きましたが、まだ勝負がつきません。
そこでどっちの腕前が良いか、王さまに決めてもらうことになりました。
二人の話を聞いた王さまは、こう言いました。
「今日から十日の間に、それぞれ腕をふるって一番良い物を作ってきなさい。それを見て判断しよう」
それから十日後、夜明けとともにかじ屋がやってきました。
かじ屋はひとかかえもある大きな鉄のさかなを、王さまの前に差し出しました。
「このさかなは、十万袋の穀物(こくもつ)をつんで海の中を泳ぐことができます」
王さまは、
(まさか、そんな事はできまい)
と、思いましたが、
「それなら十万袋の穀物を用意するから、やってみなさい」
と、言いました。
そこでやじ屋は王さまが用意した十万袋の穀物が入った袋をそのさかなのお腹につんで、水の中に入れました。
すると本当に、鉄のさかながスイスイと泳ぎだしたのです。
「これはすごい! まだ大工は来ていないが、この勝負はかじ屋の勝ちだな」
王さまがそう言ったとき、
「王さま、お待ちください。勝負の結果は、これを見てからにしてください」
と、大工が一頭の木馬をかついで現れました。
王さまはそれを見ると、
「何だ木馬か。子どものおもちゃではないか」
と、バカにしたように言いました。
「いいえ、これはただのおもちゃではございません。
空を飛ぶ木馬です。
これにはねじがついておりまして、第一のねじを回すと飛び上がります。
次のねじを回すと、はやさが加わります。
それから次々に二十六までねじを回すと、木馬は鳥よりもはやく飛び、世界中を飛び回る事が出来るのです」
大工が言い終わると、そばで見ていた王子が言いました。
「それはすごい! すぐにためさせてくれ」
王さまは王子をとても可愛がっていたので、王子が木馬をためすことを許しました。
「では、ためしに乗ってみなさい。でも危ないようなら、すぐにおりるのだよ」
王子はさっそく、木馬にまたがりました。
ねじを回した木馬はすぐに飛び上がり、山も川も家も飛び越しました。
王子はうれしくなって、次々とねじを回していきます。
木馬はものすごいはやさで飛んで、王子が気がついたときには見た事もない国の上にきていました。
王子はふと、その国を見物してみたくなりました。
そこで王子は、木馬の町はずれの森の中におろしました。
さて、王子が町を見物していると、人々がみんな空を見上げているのに気づきました。
王子は不思議に思って、そばにいたおじいさんに聞いてみました。
「あの、空に何かあるのですか?」
「ああ、この国の王女さまがあんまりお美しいので、王さまはお城においておくのが心配になられてな、神さまにお願いして空にご殿をつくり、そこに住まわせておりますのじゃ」
「では王女さまは、たったお一人でいるんですか?」
「いや、昼間は王さまが必ず会いに出かけます。だから今日もこうして、そのお帰りをお待ちしているところです」
それを聞いた王子は夜になると木馬に乗って、空を飛んでいきました。
すると空には、すてきなご殿が浮かんでいました。
王子は門の前で木馬をおりて、まっすぐご殿の中へ入って行きました。
その足音に気づいて、王女が出てきました。
王女は立派な王子が立っているのを見て、一目で心を奪われました。
もちろん王子も、美しい王女を見て心を奪われました。
「何て立派なお方でしょう」
「何て美しい人なんだ」
その日から王子は毎晩木馬に乗っては、空のご殿の王女に会いに行きました。
ところが間もなく、この事に王さまが気づいたのです。
「わしの他に、空に登れる奴がいるとは。よし、そいつをひっとらえてくれよう」
王さまは家来たちを呼んで、相談しました。
「どうすれば、王女に会いに来る奴を見つけられる?」
すると、一人の家来が言いました。
「いい考えがございます。王女さまのお部屋中に、うるし(→うるしの木からとった着色剤)をぬっておきましょう。そうすれば、そのうるしのついている男が犯人でございます」
そこで王さまは王女の部屋の全ての物に、うるしをぬっておきました。
その夜、何も知らない王子は、いつものように王女のところヘやってきました。
そして帰るとき、王子は自分の服にうるしがついているのに気づきました。
そこで王子は、うるしのついた上等な服を空から脱ぎ捨てました。
するとその服が、朝はやくから神さまにおつとめする貧しいおじいさんの目の前に落ちたのです。
「おや、そらから服が降ってくるとは、これは神さまのおめぐみにちがいない。ありがたいことだ」
おじいさんは大喜びで、その服を着ました。
さて、おじいさんが働いているお寺に、うるしがついた着物を調べる役人たちがやって来ました。
そしておじいさんの服にうるしがついているのを見つけたので、役人はおじいさんをつかまえました。
「あの正直なおじいさんが、つかまったらしいよ」
「気の毒に、きっと何かの間違いだよ」
人々は、つかまったおじいさんの事を話し合いました。
そしてこの話しは、王子の耳にも届きました。
「大変! わたしのせいで、罪のない人が!」
王子は木馬をかかえると、さっそくおじいさんが死刑にされる場所にかけつけました。
すると今まさに、王さまがおじいさんに死刑を言い渡そうとしているところでした。
王子は、むちゅうでさけびました。
「待ってくれ! 空のご殿に登ったのは、わたしだ。うるしの着物は、わたしの物だ。このおじいさんには、罪はないんだ」
これを聞いて、死刑をおこなう役人は王さまにたずねました。
「どちらの首を切ったら、よろしいでしょうか?」
「今名乗って出た、若い男の方だ!」
王さまは命令に、役人たちは王子を捕まえようとしました。
ところがそれよりもはやく、王子は木馬のねじを回して空に飛び上がってしまいました。
王子はそのまま空のご殿に飛んでいくと、王女に言いました。
「わたしと一緒に、わたしの国へ行きましょう」
「はい、どこへでも、お連れください」
二人は急いで木馬に乗ると、そのまま王子の国ヘむかいました。
さて王子の国では、王子が木馬に乗ってどこかへ行ったまま帰ってこないので、
「王子がいなくなったのは、お前が木馬を作ったせいだ!」
と、王さまが大工をろうやに押し込めたところでした。
そこへ王子が、美しい王女を連れて戻ってきたのです。
「お父さま。木馬のおかげで遠くの国へも行けましたし、美しい王女も連れて帰って来る事が出来ました。大工とかじ屋の勝負は、大工の勝ちです」
王子の言葉を聞いて、王さまは大工をろうやから出してやると、たくさんのほうびを与えました。
その後、王子と王女は結婚して、幸せに暮らしたという事です。
おしまい
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