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 第266話
 不思議の国のアリス 第16/20話 娘の首をはねておしまい!
 
 
  イラスト:ジョン・テニエル
 
 娘の首をはねておしまい!
  最初から勝てないとわかっているゲームほど、面白くない物はありません。女王とのクロッケー遊びが嫌になったアリスは、何とかうまく逃げ出す方法はないかと考えていました。
 するとその時、空中に変な物が現れているのに気づきました。
 はじめのうちは、何だか見当もつきません。
 それでもしばらく見ていると、それはニヤニヤと笑った大きな口だと分かったのです。
 「チェシャネコちゃんだわ。ああ助かった。これでまともなお話しが出来るわ」
 口だけ現れたチェシャネコは、アリスに大きく笑って言いました。
 「やあ、調子はどうだね?」
 アリスはベニヅルを下に置くと、このインチキゲームの事を話しました。
 「それが最低よ。
 木づちのベニヅルさんも、ボールのハリネズミさんも、そしてゲートのトランプたちも、みんな女王さまの味方をしてあたしの時は言うことを聞いてくれないのよ。
 さっきだって女王さまのハリネズミにあたしのハリネズミをぶつけようとしたら、女王さまのハリネズミもあたしのハリネズミも、ぶつかる前に歩いて逃げちゃったのよ」
 「きみは、女王さまが好きかい?」
 チェシャネコが、アリスに小声で聞きました。
 アリスは、首をブンブンとふって答えました。
 「とんでもない!
 女王さまなんか、ちっとも好きじゃないわ!」
 その時、女王がアリスのすぐ後ろで話を聞いていたのですが、アリスは全く気づきません。
 アリスは、話を続けます。
 「女王さまったら、とってもひどい人よ。
 さっきも赤いバラと白いバラを間違えて植えた三人に、
 『首をはねておしまい!』
 と、言うのよ。
 三人は一生懸命に、間違えた白いバラを赤くぬっていたのに。
 あたしが三人を隠してあげなければ、三人とも首をはねられていたわ」
 後ろで話を聞いている女王の顔が、赤いペンキをぬったようにまっ赤になっていきました。
 それを知った王さまやトランプたちは、おびえながらその様子を見ていました。
 でもアリスはチェシャネコとのおしゃべりに夢中で、まだ女王に気づきません。
 「それにさっきも転がり方が悪いからと言って、自分のハリネズミをふみつけてしまったのよ。
 ハリネズミの転がり方が悪いのは、女王さまが空振りをしても一生懸命に走って疲れたせいなのに」
 アリスが言い終わると、チェシャネコが小さな声で言いました。
 「アリス、後ろを見てごらん」
 「えっ、後ろ?」
 アリスが後ろを見ると、頭からゆげを出して怒っている女王がいました。
 女王は持っていたベニヅルを地面に叩きつけると、大きな声で怒鳴りました。
 「この娘の首を、はねておしまい!」
 「あっ、いえ、違うの。あたしはチェシャネコちゃんと話していて」
 「チェシャネコ? ネコがどこにいるんだい!?」
 アリスがチェシャネコの方を振り返ると、チェシャネコの姿は消えていました。
 「とにかくお前は死刑だ! 娘の首をはねておしまい!」
 「そんな、一方的よ!」
 その時、王さまが恐る恐る女王に言いました。
 「ちょっと待って。裁判を開いたらどうかな?」
 「裁判を?!」
 「いや、そのつまり、簡単なさばきをだね」
 王さまの言葉に、女王は少し考えました。
 「それもそうだね。いくら女王でも、裁判なしに人を死刑にしてはいけないね。じゃあ、裁判を始めるよ」
 おわり
 続きは第17話、「裁判」
 
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  イラスト 「愛ちん(夢宮愛)」  運営サイト 「夢見る小さな部屋」
   
 
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