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第 17話
医者になった靴職人
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ある腕の悪い靴職人が、仕事がうまくいかないので、医者を始めました。
そして、
「これは、あらゆる毒を消し去る解毒剤です。虫や蛇の毒はもちろんの事、食あたりや毒殺からも身を守ることが出来るのです」
と、たくみな話術で、自分が適当に作ったインチキ薬を売り始めました。
するとこれが大当たりで、彼はたちまち町の有名人となりました。
しかしある時、この元靴職人の医者が重い病気にかかったのです。
「どんな毒でも消し去る薬を売る医者が、病気になるとはおかしいぞ」
これを不審に思った町長が、彼が作った解毒剤に毒を混ぜるふりをして、
「褒美をやるから、これを飲み干してみろ。この解毒剤が本物なら、問題はないだろう」
と、命令しました。
「それは、その・・・」
医者は死ぬのを恐れて、
「ごめんなさい。本当は、薬の知識など持ち合わせていません。この解毒剤はインチキです」
と、白状したのです。
これを知った町の人たちは怒って、医者の元へお金を返せと押し寄せました。
すると町長は、集まった市民にこんな事を言ったのです。
「この元靴屋のインチキ医者は、たしかに悪い。だが君たちは、このインチキ医者を責める前に、自分たちを責めるべきではないのか? なにしろ、足に履く靴さえも注文しなかった男に、自分たちの命を委ねたのだからね」
人にだまされて文句を言う人は大勢います。
たしかに、人をだました悪人は、罰せられるべきでしょう。
でも、相手のうそを見抜けずに、だまされた方にも責任はあるのです。
おしまい
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