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第 41話

おこぜと山の神

おこぜと山の神

※本作品は、読者からの投稿作品です。 投稿希望は、メールをお送りください。→連絡先

制作: フリーアナウンサーまい【元TBS番組キャスター】

※本作品は、読者からの投稿作品です。 投稿希望は、メールをお送りください。→連絡先

投稿者 癒しのココロちゃんねる 【睡眠用朗読】

 むかしむかし、作物がよく取れる、とても豊かな村がありました。
「毎年、作物がよく取れるのは、山の神さまのおかげだ。ありがたいことだ」
 この村では、秋の取り入れが終わると山の神さまが近くの山に入って山を守り、春になると里に出てきて田の神さまになるのです。
 山の神さまは山のとりもちの大木に住んでいる、とても恥ずかしがり屋の女の神さまです。

 ある年の春、今年も無事に田植えが終わったので、村人たちは山の神さまをお迎えしようと、とりもちの大木の前にやって来てお祈りをささげました。
 するとやがて、
「村の衆、待たせたな。今年も豊作にしてやるからな」
と、山の神さまは里に出てくると、植えたばかりの田んぼを見て回りました。
 ところがその時、
「おっとっとっと・・・」
と、神さまは石につまずいて、小川に落ちてしまいました。
「あっ、神さまっ、大丈夫ですか?」
「ああ、大丈夫だ。・・・うん?」
 そのとき山の神さまは、ふと、水にうつった自分の顔を見てしまいました。
 その顔の、何とみにくい事でしょう。
「これが、これがわらわの顔か? こんなひどい顔が、わらわの顔じゃったとは! 恥ずかしや、恥ずかしや」
 山の神さまは顔を隠したままいちもくさんに走って、山へ逃げ帰ってしまいました。

 さて、山へ逃げ帰った山の神さまは、お供え物をひっくり返したりしての大暴れです。
「恥ずかしや! わらわの顔が、あんなにひどかったとは。もう、里に降りるのは嫌じゃ! 嫌じゃ、嫌じゃ、恥ずかしや〜!」
 山の神さまは、そのままほこらに閉じこもってしまいました。
 すると山の神さまが見回りに来なかったので、植えたばかりの田んぼの苗(なえ)が枯れ始めたのです。
「困ったのう。一体どうしたのじゃ、山の神さまは?」
「これじゃあ、食う物がなくなってしまうぞ」
「ここはもう一度、山の神さまにお願いして、田んぼを見回ってもらうしかない」
 そこで村人たちは山のとりもちの大木の前に集まって、山の神さまにお願いしました。
「山の神さま! 田の神さま! お願いです! 田んぼに、出てきてください」
 でも山の神さまは、ほこらの中で泣き叫ぶばかりです。
「嫌じゃ、嫌じゃ。わらわはもう、村へも田へも出たくない!」
 困った村人たちは、どうしたものかと相談をしました。
「山の神さま、もしかして腹が減っているのでは? だから機嫌が悪いのかも」
「そうじゃ。そうに違いない。みんなでお供え物をして、歌って踊れば、きっと機嫌をなおされるに違いない」
 こうして村人たちは、山の神さまのいるほこらの前に山ほどのお供え物をしました。
 そして村人たちは、おかめやひょっとこのお面をつけると、笛や太鼓に合わせてにぎやかに歌って踊りました。
 それを知った山の神さまは、ほこらのすき間からのぞいて見ました。
「ああ、楽しそうだな。
 きれいな着物を着て、おかめやひょっとこの面白い面をつけて。
 ・・・面白い面?
 ・・・面白い顔?
 嫌じゃ!
 やめてくれ!
 わらわの顔は、おかめやひゃっとこの様にみにくいんじゃ!」
 山の神さまは、顔を押さえて泣き叫びました。
 すると晴れていた空が急に曇って、山全体が大きくゆれ動きました。
「大変だ! 山の神さまが怒った!」
「逃げろ! 逃げろ!」
「危ないぞ!」
 村は、大騒ぎとなりました。
 するとそれを見ていた物知りおばあさんが、村人たちに言いました。
「お前たち、何で山の神さまを怒らせるんじゃ!」
「いいや、おれたちは、山の神さまを怒らせようとしたんじゃねえ。山の神さまに、喜んでもらおうとしたんじゃ」
  村人たちがそう言うので、おばあさんはみんなを集めて言いました。
「お前さんたちは、山の神さまの顔を見た事はあるか?」
「ああ、見た事はあるぞ」
「それで、どんな顔じゃった?」
「まあ、正直言って、みにくい顔じゃった」
「そうじゃ。
 山の神さまはな、そりゃあ、みにくい顔をしておられる。
 今まではその事に、山の神さまは気づかれんかった。
 ところがそれがわかってしまい、恥ずかしくなって、ほこらに閉じこもられてしまわれた。
 そんなところに、お前らがきれいな着物を着て、しかもみにくい顔のおかめやひょっとこの面をかぶって踊るもんだから、山の神さまは自分がみにくいのを馬鹿にされたと思って、よけいに気を悪くされたのじゃ。
 山の神さまとはいえ、女じゃからな」
「なるほど、言われてみれば、そうかもしれん」
「なら、どうすれば機嫌を直されるのじゃ?」
「それはな、山の神さまよりも、もっとぶさいく物をお供えすればええ。
 そうすりゃ、山の神さまは自分よりぶさいくな顔がこの世にいたのかと、大喜びなさるにちげえねえ」
「しかし、あの山の神さまよりもぶさいくな物など、この世におるのか?」
「ああ、それなら、オコゼという魚がよいじゃろ」
「オコゼ? なんじゃあ、それは」
 するとおばあさんは、水がめを持って来て中に入っている物を見せました。
「これが、オコゼじゃ」
 水がめをのぞきこんだ村人たちは、すぐに大笑いです。
「ギャハハハハハッ、なんて面白い顔じゃあ!」
「おかしな顔じゃ!」
「みにくい顔じゃ!」
「ぶさいくな顔じゃ!」
 そこで村人たちは、このオコゼを持って山の神さまが隠れているほこらの前に置きました。
 するとほこらの扉が少しだけ開いて、山の神さまがこちらをのぞきました。
 村人たちは山の神さまの顔を見ないように頭を下げたまま、持ってきた水がめを差し出しました。
 その時、水がめの中のオコゼが、ひょいと顔を出したのです。
 このオコゼの顔をジッと見つめていた山の神さまは、突然大笑いしました。
「オホホホホホッ。これはおもしろい顔じゃあ! この世に、わらわよりおかしな顔があったのか! オホホホホホッ」
 こうして山の神さまの機嫌はすっかりなおって、村人たちと一緒に村へおりて来てくれたのです。
 おかげで田や畑は生き返り、今年も大豊作となりました。

おしまい

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