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第 52話

金七と孫七

金七と孫七

 むかしむかし、あるところに、とても運の悪いおじいさんがいました。
 毎日の様に運の悪い事が続くので、おじいさんは七日七晩、観音堂(かんのんどう)にこもる事にしました。
「観音さま。どうか、福を授けてください」
 そして七晩目の夜が明けたので、おじいさんはお堂を出ました。
「よし、これで少しは運が良くなっただろう」
 おじいさんはのんびり歩きながら、畑仕事をしている人をながめました。
「そうだ。わしも働かなくては」
 その時、後ろからカタコト、カタコトと、音がしました。
 おじいさんが振り返ると、何とひょうたんがついて来るではありませんか。
 おじいさんが歩くと、ひょうたんも動き出します。
 おじいさんが止まると、ひょうたんも止まります。
「はて? 不思議なひょうたんだ。中に、何か入っているのかな?」
 おじいさんが、ひょうたんを手に取ると、
 ぴょーん!
 ぴょーん!
と、ひょうたんの中から二人の子どもが飛び出して来ました。
「おいら、金七(きんしち)。おじいさんの願い事を、かなえてあげるよ」
「おいら、孫七(まごしち)。おじいさんの願いは、何だい?」
 おじいさんは、びっくりです。
「こりゃ驚いた。観音さまが、さっそく福を授けてくれた」
 おじいさんは観音さまに感謝をすると、二人に団子とお酒が欲しいと頼みました。
 すると金七と孫七は、
「あいよ」
「あいよ」
と、ひょうたんを逆さに振って、団子とお酒を出しました。
「おお、これはうまい団子と酒だ」
 おじいさんは団子とお酒を腹一杯食べると、ひょうたんをかついで金七と孫七を家に連れて帰りました。
 そしてその日から、おじいさんは畑仕事をしている人や貧しい人を見ると金七と孫七に頼んで、ひょうたんからごちそうを出してやりました。

 ある日の事、馬を七頭も連れた馬売りが、おじいさんの家へやって来ました。
「じいさんは、珍しいひょうたんを持っているそうだね」
 馬売りはそう言うと、小判がぎっしりつまった袋を差し出しました。
「どうかね。おれの馬七頭と小判三百両をやるから、そのひょうたんをゆずってくれないか?」
「いいや。これは観音さまに頂いた大切なひょうたんだから、いくら金をもらってゆずるわけにはいかないよ」
 すると金七と孫七が、小さな声でこう言うのです。
「ひょうたんは、売っていいよ」
「ひょうたんは、もういらないよ」
 金七と孫七が言うので、おじいさんは馬売りにひょうたんを売ってやりました。

 ひょうたんを手に入れた馬売りは、ひょうたんを持ってお城に行きました。
 殿さまにひょうたんを差し出して、たくさんのほうびをもらおうと考えていたのです。
「殿さま、世にも珍しいひょうたんをお届けにあがりました。欲しい物が何でも出て来る、不思議なひょうたんでございます」
 お城の庭で馬売りが言うと、殿さまは目を輝かせました。
「ほほう。それは確かに珍しい。それでは、さっそく食べ物を出して見せよ」
「はい、かしこまりました」
 馬売りは得意顔でひょうたんを逆さにして、ひょうたんを振りながら言いました。
「ごちそう、出ろ〜」
 しかしごちそうどころか、水の一滴も出て来ません。
「あれ? こんなはずは」
 馬売りはもう一度ひょうたんを振りましたが、やっぱりひょうたんからは何にも出て来ません。
「ごちそう、出ろ出ろ!」
  馬売りがひょうたんを力一杯振ると、ひょうたんは馬売りの手から飛び出して殿さまの頭にこつんと当たりました。
「ぶれい者! このうそつきめを、たたき出せ!」
 殿さまは怒って馬売りを外に放り出すと、この国に二度と来てはならぬと言い渡しました。

 その後、おじいさんは馬売りからもらった七頭の馬と三百両のお金で、金七と孫七と仲良く暮らしたという事です。

おしまい

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