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第 67話
東壺屋と西壺屋
むかしむかし、茂衛門と八右衛門という男が、お伊勢参りに出かけました。
途中に大きな榎(えのき)があったので二人はそこで一休みをしたのですが、歩き疲れていたのか茂衛門はグーグーと居眠りを始めました。
「うるせえいびきだな。・・・おや?」
どこからか一匹のハチが飛んで来て、すーっと茂衛門の左の鼻の穴に入っていったのです。
「大変だ! どうしよう!」
下手に騒げばハチが暴れて、茂衛門の鼻の中を刺すかもしれません。
八右衛門はハラハラしながら見守っていました。
するとやがてハチは茂衛門の右の鼻の穴から出て来ると、榎の周りを何度も行ったり来たりしながら飛び回り、どこかへ行ってしまいました。
二人は旅を続けて無事にお伊勢参りをすませたのですが、八右衛門はどうもあのハチが飛び回っていた榎の事が気になって仕方がありません。
八右衛門は一人引き返すと、あの榎の下を掘ってみました。
すると地面の中から、大きな壺が二つも出てきたのです。
「もしかすると、小判でも入っているのか? いや、そんなうまい話が・・・おおっ!!」
何と壺の中には、黄色く光り輝く小判がぎっしりと詰まっていたのです。
八右衛門はたちまち大金持ちとなりましたが、あのハチは茂衛門の鼻から出て来たので、もしかするとハチは茂衛門に小判の事を教えていたのではないかと思いました。
そこで八右衛門は小判の入った壺を元通り榎の下に埋めると、茂衛門を榎の所へ連れて来て言いました。
「そんなわけだから、この壺も小判もお前の物だ」
すると茂衛門は小さく首を振って言いました。
「いや、おらは、グーグー寝ていてハチの知らせに気づかなんだ。
お前が起きて見ていなければ、この壺も金もそのままじゃ。
だからこれは、見つけたお前の物じゃ
」
「・・・いいのか?」
「ああ、いい」
「そうか。それなら壺と小判は、ありがたく頂いていくぞ」
さて、八右衛門が小判を持って帰った後、茂衛門は壺を掘り返した榎の下を再び掘ってみました。
なぜなら壺を見せてもらった時、壺の底に小さな字で《都合七つ》と書いてあったのを見つけたからです。
「他人に恵んでもらった物は身につかねえ。
それに本当におらが授かるはずの物なら、恵んでもらわんでも手に入るはずだ。
八右衛門が二つ掘り返したから、残り五つが埋まっているはず」
茂衛門はそう信じて、木の周りを何日も何日も掘り続けました。
すると思った通り、小判の入った壺が五つ出てきたのです。
こうして茂衛門も長者になって、八右衛門の家の近くに大きな屋敷を建てました。
この二つの家は東壺屋と西壺屋と呼ばれて、それから末永く栄えたという事です。
おしまい
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