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第 70話
天狗のコマ
※本作品は、読者からの投稿作品です。 投稿希望は、メールをお送りください。→連絡先
制作: フリーアナウンサーまい【元TBS番組キャスター】
むかしむかし、ある山寺に、いたずら好きな珍念(ちんねん)という名の小僧さんがいました。
珍念は仕事を言いつけても、いつの間にかいなくなってしまうし、お経をあげさせると途中からいねむりを始めます。
和尚さんも手を焼く問題児ですが、この珍念、コマ回しが得意で大人にも負けた事がありません。
ある晩の事、珍念がおしっこをすませて長い廊下を戻って来ると、鳥の羽音の様な音がして誰かが叫びました。
「珍念、一緒に来い」
「なっ、なんだー?!」
怖くなった珍念が暗闇の中で足をすくませると、ふいに体が空に舞いあがり、風をきって飛び始めました。
「うわぁーー!」
珍念が恐ろしくて目をつぶっていると、やがてふわりと地面に降りたったようです。
「ここは、どこだろう?」
あたりは暗くて何も見えません。
すると突然、不気味な声が聞こえてきました。
「珍念よ、天狗になるのだ」
「天狗になれ」
「天狗になれ」
珍念はぶるぶる震えながら、必死で首を横に振りました。
「珍念よ、天狗になるのだ」
「いくら首を振って嫌がっても、きっと天狗にしてみせるぞ」
「してみせるぞ」
「してみせるぞ」
その時になって、珍念は天狗に山へ連れてこられたのだと気づきました。
そこで珍念は、ふところに入れたままになっていたコマを取り出すと、天狗に向かって言いました。
「コマの回しっこをして、もしおいらが負けたら天狗になってやるよ」
「あはははは、いいだろう。人間が天狗に勝てると思っているらしい。・・・えいっ!」
天狗の一人が、コマを投げる音をさせました。
暗闇なのでコマは見えませんが、コマの回る音に耳をすませた珍念が自分のコマをその音めがけて投げつけると、天狗のコマは簡単にはね飛ばされました。
「次はわしだ!」
別の天狗のコマが珍念のコマを狙いましたが、珍念のコマは天狗のコマをはじきました。
何度やっても天狗のコマは珍念のコマにはね飛ばされてしまうので、とうとう音をあげた天狗たちが口々に言いました。
「小坊主のくせに、なかなかやるわい」
「いやはや、ここまで手ごわいとは思わなかった」
「天狗が小僧に負けるとはなあ。わっはっはっはっ」
「我らに勝った褒美に、我らのコマをやろう」
天狗たちは珍念のふところに自分たちのコマを次々と入れると、どこかへ行ってしましました。
しばらくすると、夜が明けて来ました。
「珍念やーい」
珍念が声のする方へかけていくと、寺の仲間が顔をまっ赤にしながら山を登って来ました。
「珍念、無事だったか」
仲間の小僧さんが、珍念のふところを見て言いました。
「おい、珍念。ふところには何が入っているんだい」
すると珍念は、得意顔でふところにある物を取り出しました。
「驚くなよ。これは天狗にもらったコマだ。・・・あれ?」
なんとふところから出てきたは、たくさんのキノコだったそうです。
おしまい
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