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第 86話
お地蔵さまのお礼
※本作品は、読者からの投稿作品です。 投稿希望は、メールをお送りください。→連絡先
制作: フリーアナウンサーまい【元TBS番組キャスター】
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投稿者 「【やさしく朗読】ま る / M A R U」
むかしむかし、あるところに、おじいさんとおばあさんがいました。
二人はとても貧乏ですが、大変正直なおじいさんとおばあさんです。
ある年のお正月、餅をつく米がないので、二人は値段の安い粉米(こなごめ)とぬかを買ってきて、それで粉ぬか餅というのをつきました。
それが出来ると二つの大きなお供えを作って、裏の川の水神さまへそれを供えに行きました。
そのとき、元日の朝一番に汲む、若水(わかみず)という縁起の良い水を汲むつもりだったのです。
ところが水神さままで行ってみると、ふところに入れたはずのおもちがなくなっていました。
「はて? お供えの餅がなくなった」
「もしかしたら、川の中に落としてしまったのかもしれませんね」
そこで二人が川にそって探していると、川下の橋のたもとに三つのお地蔵さまが立っていました。
そばへに行くと、お地蔵さまがニコニコ笑っているようにみえます。
「お地蔵さま。今、ここへお供えの粉ぬか餅が流れてはきませんでしたか?」
すると、まん中のお地蔵さまが言いました。
「来た、来た、来たが、このおれが自分のお供えにもらっているよ」
見てみると、その地蔵さまの前へ、ちゃんとお餅が供えてあったのです。
それを知ると、おじいさんは、
「それはよかった。それではその粉ぬか餅は、お地蔵さまにお供えいたします」
そういって家へ帰ると、水神さまへは別のお餅を持っていきました。
さて、そのお地蔵さまの前を、年寄りのキツネと足の悪いキツネの二匹がお腹を空かせて通りかかりました。
「あー、お正月といっても、何にも良い事はないな」
すると、お地蔵さまが、
「これこれ、キツネ、キツネ」
と、呼び止めて言いました。
「おれの前のこの粉ぬか餅は、貧乏なおじいさんがくれて行った物だ。もらったはいいが、石のおれには食べられんから、お前たち二人で食べるがいい」
キツネたちは大喜びで、
「ありがとうございます」
と、おいしそうに大きなお餅を食べました。
さて、次の年のお正月です。
おじいさんとおばあさんは、やはり貧乏でしたが、ほんの少しだけ本物のお餅をつく米を買うお金が出来ました。
それでおじいさんは、
「おばあさんや、今年こそ、ちゃんとしたお餅をついて食べような」
そう言って米を買いに町へ出かけましが、その途中で、ふと三人のお地蔵さまが目に入りました。
「ああ、この寒いのに、お地蔵さまが雨ざらしだ」
それを知るとおじいさんは、お米を買う気がしなくなりました。
「お地蔵さまを雨ざらしにして、自分たちだけがお餅を食べるわけにもいくまいて」
そこでおじいさんはお餅の米を買うのをやめて、そのお金で三つのかさを買いました。
そしてお餅の方は残ったお金で去年と同じ様に、粉ぬか餅をつく事に決めました。
「さあ、お地蔵さま。これでもかぶってください」
おじいさんはかさを一つ一つ、お地蔵さまの頭の上にかぶせてあげました。
「おう、ありがとな」
おじいさんには、お地蔵さまがお礼を言ったように聞こえました。
「なんの、これくらいのこと」
おじいさんは、大喜びで家へ帰って行きました。
それからしばらくすると、お地蔵さまの前を、かさのない三人の親子が通りかかりました。
この寒いのに、貧乏でかさも買えないのです。
それを見ると、お地蔵さまはすぐ声をかけて呼び止めました。
「おれたちがかぶっているかさは、貧乏なおじいさんがくれた物だ。おれたちは石だから大丈夫だが、人間は雨に濡れては大変だ。さあ、かさを持って行け」
三人の親子は大喜びで、
「ありがとうございます」
と、そのかさを頂いていきました。
さて、また次のお正月がやってきました。
貧乏なおじいさんは一生懸命働いたので、去年よりも少し多くのお金が出来ました。
それで今年こそはお米と、それにお祝いの魚も買ってこようと町へ出かけました。
ところがその日は雪が降っていて、お地蔵さまの前まで来ると、三人のお地蔵さまがすっかり雪をかぶって、まっ白になっていました。
これを見ると、おじいさんはまたお餅の米を買う気にも、お祝いの魚を買う気にもならなくなってしまいました。
「去年も粉ぬか餅でお正月をしたし、一昨年も、やはり粉ぬか餅のお正月だったんだ。それが今年だけ、白いお餅でお魚付きのお正月ってこともあるまい」
それで、また粉ぬか餅を買って、残りのお金で赤い布を買ったのです。
そして帰り道、お地蔵さまのところへやって来ると、
「お地蔵さま、この雪に、さぞお困りでしょう」
そういって赤い布を切って、小さなお地蔵さまから順番順番にかけて行きました。
ところが布が少なかったのか、大きなお地蔵さまにかけてあげる布が足りません。
雪はどんどん降っているのに、その地蔵さまだけが裸でほうっておくわけにいきません。
そこでおじいさんは、自分が着ていたみのとかさを脱いで、
「お地蔵さま、粗末ですが、これでも着ていてくださいませ」
と、お地蔵さまに着せてあげて、自分は裸のまま雪にまみれで帰ってきました。
さてその夜、ゴロゴロと大きな木を引くような音が、おじいさんの家にやって来ました。
「はて、こんな夜に何だろう?」
おじいさんが不思議に思っていると、玄関の方から声がしました。
「おれたちは、おじいさんにかさをもらった者たちだが、ちょっと起きてもらえまいか」
それで、おじいさんが言いました。
「わかりました。しかし家にはたきぎがなくて、火も出す事は出来ません。この寒空に来てもらったのに、すまんことです」
すると、外の声は言いました。
「おれたちは石だから、寒さは関係ない。それにたきぎとして、おれたちが大きな木を持って来ている。置いて帰るから、好きなように使え」
そこで起きて玄関を開けると、ふぶきの中を三人のお地蔵さまが、トコトコと帰って行くところでした。
家の前には、大きな木が一本残してあります。
「ああ、ありがたや。ありがたや。お地蔵さま、それでは遠慮のういただきます」
そこでおじいさんが、その木をたきぎにしようとオノで割りつけると、何と中から金銀財宝がザクザクところがり出て来たのです。
おかげでおじいさんとおばあさんは、その新年から長者になりました。
おしまい
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