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福娘童話集 > 日本昔話 > その他の日本昔話 >大岩かつぎ 彦一のとんち話

第 108話

切れない紙

大岩かつぎ
彦一のとんち話 → 彦一について

 むかしむかし、彦一(ひこいち)と言う、とてもかしこい子どもがいました。

 ある日の事、彦一と庄屋さんが松橋(はつばせ→熊本県中部)という町の近くにさしかかると、四人の百姓が道の真ん中にある大岩の前で集まっていました。
「どうした?」
 庄屋さんが尋ねると、百姓たちが答えます。
「はい、三日前の大雨でこの大岩が崖から道に転げ落ちました。邪魔なので何とかしようと思っているのですが・・・」
 百姓たちは大岩を押したり引いたりしますが、大岩はビクともしません。
「彦一よ、何とかならんか?」
「うーん。そうですね・・・。(これは運ぶよりも埋める方が・・・)」
 庄屋さんの言葉に彦一が考えていると、道の向こうからぶしょうひげを生やした身なりの悪い浪人がやってきました。
「こらこら百姓ども、道の真ん中で何をしておる!」
 その浪人を見た庄屋さんと彦一は、顔を見合わせました。
「彦一よ、あの浪人は確か」
「はい、あの時の茶店の浪人ですね」
 茶店の浪人とは、以前に彦一が懲らしめた酔っ払い侍の事です。→『切れない紙
「はい、お侍様。この大岩が道をふさいでいるので、何とか運ぼうとしているのですが」
 百姓が答えると、浪人は真面目な顔で言いました。
「そうか。では、わしが大岩を運んでやろう!」
「えっ、お侍様が、お一人でですか?」
「うむ、こう見えてもわしは十人力だ! しかし、今は腹が減って力が出せぬ。大岩を運んでやる代わりに、腹一杯に飯を食わせてくれ」
「は、はあ。大岩を運んで頂けるのでしたら」
 そこで百姓たちは、自分たちのお弁当を浪人に差し出しました。
 浪人はよほどお腹が空いていたのか、四人のお弁当をたちまちたいらげます。
 そして腹一杯になった浪人は立ち上がると、大石の前に背中を向けて言いました。
「さあ、百姓ども! これから大岩を運んでやるから、わしの背中に乗せてくれ」
「えっ!? お侍様、それは無理でございます。これを持ち上げる力があれば、自分たちで運びますので」
 百姓たちがそう答えると、浪人は怖い顔で怒鳴りつけました。
「だまれ! どこが無理じゃ! わしは運んでやるとは言ったが、自分で持ち上げるとは言わなかったぞ!」
「・・・!」
 百姓たちは浪人にだまされたと気付きましたが、全くの嘘ではないので言い返す事が出来ません。
「ワハハハハッ。わしの背中に乗せる事が出来ないのなら、わしは行くぞ」
 そう言って立ち去ろうとする浪人に、彦一が声をかけました。
「お侍さん、しばらくお待ちください」
「なんじゃ、小僧」
「この大石をあなたの背中に乗せたら、間違いなく大岩を運んでいただけるのですね」
「武士に二言はないわ!」
「もし出来なければ、先ほど食べた弁当の代金を頂きますよ」
「くどい!」
「では準備をするので、少しお待ちください」
 彦一はにっこり笑うと、百姓たちの耳に何かをささやきました。
 それを聞いた百姓もにやりと笑うと、大石のそばの地面をくわで掘り始めます。
「やい、何をしている?」
 浪人が不思議そうに聞くと、彦一は答えます。
「お侍さんの背中に大岩を乗せやすいように穴を掘っています。ささ、準備が出来ました。今から大岩を転がしますから、お侍さんは穴の中で大岩を受け止めてください」
「ば、ば、ば、馬鹿な! そ、そ、そ、そんな事、で、で、で、出来るわけないだろう」
「あれ、おかしいですね。武士に二言はないのでは?」
「ううむ・・・」
「それとも、先ほど食べた弁当の代金を支払いますか?」
「む、むむむ」
 浪人がうなっていると、そこへ数人の役人たちがやって来ました。
 ちょうど、道をふさぐ大岩の様子を見に来たのです。
「どうした? 何かもめごとか?」
 尋ねる役人たちに、庄屋さんが答えました。
「いえいえ、ここのお侍様が百姓たちの弁当を買い取ってくれたのです。四人分で百文」
 百文は、四人分のお弁当の三倍近い値段です。
「な、な、なに? ひゃ、百文は高いぞ!」
 文句を言う浪人に、彦一がささやきました。
「大岩の下敷きになるよりは、ましではないですか? それに、あの時に立ち会ってくれたお侍様ほどではないですが、この役人たちも強そうですよ」
「あの時の立ち合い? ・・・あっ! こ、こ、こ、小僧! お、お、お、お前はあの時の」
 浪人はようやく、彦一の事を思い出しました。
 浪人は以前に、彦一の知恵で痛い目にあっています。
 これ以上に言い合っても、頭の良い彦一に勝てる気がしません。
「わ、わかった。弁当代を払う」
 浪人は百姓たちに弁当代の百文を払うと、逃げる様に立ち去っていきました。
 その様子に、彦一たちは大笑いです。
「さあ、穴をもう少し広げて、この大岩を埋めてしまいましょう」
 彦一の言葉に百姓たちは大岩が入るほどに穴を広げると、役人たちと一緒になって大岩を穴に埋めてしまいました。

おしまい

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