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第 109話
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鳥の言葉
彦一のとんち話 → 彦一について
むかしむかし、彦一(ひこいち)と言う、とてもかしこい子どもがいました。
ある日のこと、庄屋さんが飼っているネコがいなくなりました。
「あのネコも年だから、死ぬ前に姿を消したのかもしれんな」
庄屋さんの言葉に、ネコを可愛がっていた村の子供たちが悲しそうに言います。
「そんな・・・。せめて、お墓を作ってやりたかったな」
すると彦一が、子供たちに言いました。
「お寺の軒下を調べてごらん」
そこで子供たちがお寺の軒下を調べると、彦一の言葉通りにネコが死んでいたのです。
子供たちはお寺の和尚さんに頼むと、小さなお墓を作ってやりました。
別の日、村の女の子が大切にしていた人形がなくなりました。
古くなった鈴や簪(かんざし)を付けた、キラキラと光る可愛い人形です。
話を聞いた彦一が、女の子に言いました。
「畑にある松の木を調べてごらん。あそこはカラスの巣があるから、気を付けてね」
女の子が松の木に行くと、松の木の下に女の子の人形が落ちていました。
「ありがとう。彦一さん」
また別の日、彦一が子供たちに言いました。
「私が持っている裏山に行ってごらん。小鳥たちが遊びに来るようにしておいたから」
彦一の裏山には小鳥のエサとなる木の実が少ないので、小鳥などはあまりいません。
それを知っている子供たちは首をかしげましたが、彦一の言うことならと裏山に行ってみました。
すると本当に、彦一の裏山にはたくさんの小鳥たちがいたのです。
この様なことがあって、彦一は鳥の言葉がわかるとの噂が広まりました。
そんなある日、子供たちが彦一に鳥の言葉を教えてほしいと頼みました。
すると彦一は、笑いながら子供たちに言いました。
「さすがに鳥の言葉は分からないが、よく観察していれば鳥の気持ちや行動は分かるようになるよ」
「どうやって? ネコの場所を知ったのは?」
「あの日の朝、カラスがお寺の周りを飛んでいたからさ。カラスは生き物が死んでいたりすると、その上を『カァー、カァー』と鳴きながら輪を作って飛ぶんだよ」
次に、人形をなくした女の子が言いました。
「じゃあ、あたしの人形を見つけたのは?」
「カラスは、キラキラと光る物が好きなんだ。光る物を自分の巣に運ぶことがあるけど、あの人形はカラスの巣には大きいから、邪魔になって巣から落としたと思うよ」
「それじゃあ、裏山に小鳥たちが集まったのは?」
「人も鳥も水がないと生きていけない。近頃は、雨が少なくなったからね。私がねんどを使って、裏山にいくつかの小さな水飲み場を作ったからさ」
「へぇー。彦一さん、すごい!」
喜ぶ子供たちに、彦一はにっこり微笑みました。
おしまい
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