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 第 65話
 
  
 当仁坊(とうじんぼう)
 福井県の民話 → 福井県の情報
  むかしむかし、福井県勝山市の平泉寺(へんせんじ)というお寺に、当仁坊(とうじんぼう)という立派なお坊さんがいました。
 ある日の事、当仁坊はお寺の土地を自分たちの物にしようとするお坊さんたちの悪巧みを知り、そのお坊さんたちを集めてきつく叱りました。
 「我々は、世の人々を救うために御仏(みほとけ)につかえる身だ。
 それが欲に駆られて悪行を企てるとは、何と情けない事。
 恥を知りなさい!」
 ところが悪いお坊さんたちは反省するどころか、
 「我らの計画を知っているのは当仁坊一人。当仁坊さえいなければ、この計画はうまく行くはず」
 と、当仁坊を殺す相談を始めたのです。
 
 それからしばらくした四月五日の事、平泉寺のお坊さんたちは景色のいい安島浦(あんとうら)へ海岸見物に出かけることになりました。
 悪いお坊さんたちには、当仁坊を殺してしまう絶好の機会です。
 「よし、当仁坊を始末するぞ」
 「おう」
 酒盛りが始まると悪いお坊さんたちは次々と当仁坊に酒をつぎ、すっかり酔っ払った当仁坊を崖っぷちまで連れて行きました。
 そして崖の下を指さすと、当仁坊に言いました。
 「当仁坊、見てください。下を船が通りますよ」
 「ほう、どれ」
 思わず崖の下を覗き込んだ当仁坊の背中を、悪いお坊さんたちが力一杯押しました。
 「はかられたか〜〜〜!」
 当仁坊は無念の声を残して、崖の上から海の底へと消えてしまいました。
 「よし、これで我らの計画を知る者はいない。あの寺は我らの物だ」
 悪いお坊さんたちがそう言ったとたん、それまで晴れていた空がにわかにかきくもり、どしゃぶりの雨とともに何本もの雷が崖の上に落ちて、悪いお坊さんを次々と殺したのです。
 
 それからは毎年四月五日になると、どんなに晴れた日でも必ず海が荒れると言うことです。
 おしまい   
 
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