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第110話

イブのいろんな子どもたち

イブの色々な子どもたち
グリム童話 →グリム童話の詳細

 むかしむかしのお話です。
 アダムとイブはエデンの園(その)から追い出されてしまうと、荒れた地上に家を建て、一生懸命に働かなくてはなりませんでした。
 アダムは畑を耕して、イブは毛糸をつむぎました。
 イブは毎年、一人ずつ子どもを生みましたが、その子どもたちは、みんな同じというわけではなく、美しい子どももいれば、みっともない子どももいます。
 ある日の事、神さまは天使(てんし)をアダムとイブのところヘ使いに出し、二人がどんなふうにやっているか見に行くと伝えました。
 それを聞いたイブは喜んで、神さまをお迎えするために家をきれいに掃除して花を飾りました。
 それが終わるとイブは、子どもたちを呼び寄せました。
 この時、イブには二十人の子どもたちがいましたが、そのうちの八人は美しい子どもで、残りの十二人はみっともない子どもです。
 イブは八人の美しい子どもたちの顔や体を洗って髪の毛をとかし、洗いたてのシャツを着せてから言いました。
「いいですか。神さまがおいでになったら、お行儀良く、お利口にするのですよ」
 そして今度は、残った十二人のみっともない子どもたちに言いました。
「お前たちは、神さまに姿をお見せしてはいけません。どこかに隠れていなさい」
 そこで、みっともない子どもたちは隠れ場所を探して、
 一人目は、ほし草の下に、
 二人目は、屋根裏に、
 三人目は、わらの中に、
 四人目は、暖炉(だんろ)の中に、
 五人目は、穴ぐらの中に、
 六人目は、おけの下に、
 七人目は、ブドウ酒だるの下に、
 八人目は、古い毛皮の下に、
 九人目と十人目は、イブがいつも子どもたちの服を作るのに使う、きれ地の下に、
 十一人目と十二人目は、イブが子どもたちのクツを作るのに使う、革の下に隠れました。

 みんながちょうど隠れ終えた時、玄関(げんかん)からノックの音が聞こえました。
 アダムがすき間からのぞていてみると、そこには神さまが立っていました。
 神さまが家の中に入ってくると、美しい子どもたちが列を作って並びました。
 そしてそろっておじぎをしてから、神さまに手を差し出してひざをつきました。
 神さまはにっこり微笑むと、
「よしよし、ではお前たちに、祝福(しゅくふく)を与えよう」
と、言って、一番目の子どもの頭に両手を置いて、
「お前は、強い王さまになりなさい」
と、言いました。
 それから神さまは、
 二番目の子には、「お前は領主(りょうしゅ)」
 三番目の子には、「お前は代官(だいかん)」
 四番目の子には、「お前は騎士(きし)」
 五番目の子には、「お前は貴族(きぞく)
 六番目の子には、「お前は市民(しみん)」
 七番目の子には、「お前は商人(しょうにん)」
 八番目の子には、「お前は学者(がくしゃ)」
と、言いました。
 この様子を見ていたイブは、
(エデンの園を追い出されたわたしたちの子どもに、こんなに素晴らしい祝福をお与え下さるとは、神さまは何て慈悲深いお方なのでしょう。もしかすると神さまは、あの子たちにも祝福をお与え下さるかもしれないわ)
と、思いました。
 そこでイブは走って行って、みっともない子どもたちを隠れ場所から連れてきました。
 すると、みっともない子どもたちを見た神さまはニコニコと笑いながら、
「ではこの子たちにも、祝福を与えよう」
と、言いました。
 神さまは今までと同じ様に、一番目の子の頭に両手を置いて、
「お前は、百姓(ひゃくしょう)になりなさい」
と、言いました。
 それから、
 二番目の子には、「お前は漁師(りょうし)」
 三番目の子には、「お前はかじ屋」
 四番目の子には、「お前は皮なめし職人
 五番目の子には、「お前は織物職人(おりものしょくにん)」
 六番目の子には、「お前は靴屋(くつや)」
 七番目の子には、「お前は仕立屋(したてや)」
 八番目の子には、「お前は陶器(とうき)づくり」
 九番目の子には、「お前は馬車(ばしゃ)ひき」
 十番目の子には、「お前は船頭(せんどう)」
 十一番目の子には、「お前は使いのもの」
 十二番目の子には、「お前は、召使い(めしつかい)」
と、言いました。
 これを聞いたイブは、神さまに尋ねました。
「神さま。
 どうして神さまは、子どもたちにそんなに違った祝福をお授けになるのですか?
 この子たちはみんな、わたくしが生んだ子どもです。
 姿は違っても、みんなわたくしの可愛い子どもです。
 後の十二人にも、前の八人の様な立派な祝福をお与え下さいませ」
 すると神さまは、首を振ってこう答えました。
「イブよ、お前には世の中と言う物が分かっておらん。
 この子たちがみんな王侯貴族(おうこうきぞく)になってしまったら、だれが穀物(こくもつ)を作ったり、脱穀(だっこく)したり、粉にしたり、パンに焼いたりするのかね。
 誰かが機織りをしなければ、服は作れないし、誰かが大工をしなければ、家を建てることが出来ない。
 もし身分の違いが無ければ、みんな好き勝手な事をする。
 みんなが好き勝手をすれば、世の中はなりたたんのだ。
 誰かは、辛い仕事をしなければならないのだ」
 それを聞いて、イブは答えました。
「神さま、お許し下さいませ。わたくしが、浅はかでございました。どうぞ、わたくしの子どもたちの事は、神さまのおぼしめし通りになさって下さいませ」

※ このお話しが作られた当時は、仕事を親から受け継がなければならない時代で、自分の好きな仕事をする事が出来ませんでした。
 つまり、良い家柄に生まれた子どもは一生遊んで暮らし、低い家柄に生まれた子どもは、どんなに努力をしても一生貧しい生活でした。

 もちろんその事に、低い家柄の人たちから多くの不満が出ました。
 しかし当時の聖職者たちは、この様な話を多く語り、身分の世襲制を正当化しようとしたのです。

おしまい

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