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1月26日の日本の昔話
  
  
  
  アズキとぎ
 むかし、あるところに、とてもきみのわるいお寺がありました。
   あるばんのこと、村人たちが集まって、物知りのおじいさんから、お寺のばけものの話を聞いていました。
  「よいか、あの寺には、いろんなばけものがいるが、そのなかでも、まず、一つ目にこわいのがひとだま。二つ目にこわいのが身投げの古いど。三つ目が、うらめしやのやなぎで、四つ目が動くはか石、五つ目に出てくるのが、一本足のかさ小僧で、・・・」
   おじいさんの話がもりあがるほどに、村人たちはふるえあがりました。
   けれども、兵六(へいろく)という男だけは、へいきな顔です。
  「これだけは、おまえでもこわいはずじゃ。アズキとぎのおばけじゃよ」
   おじいさんはまた、話しはじめました。
  「アズキとぎはな、本堂にすみつくおばけの大将でな。この村のものも、だれひとり正体を見たものはおらん。『ショーキ、ショキショキ。アズキ、とぎましょか? 人とって食いましょか? ショーキ、ショキショキ』声だけじゃそうな、これがいちばんこわ〜いおばけじゃ」
   ところが、兵六ときたら、
  「おら、なんともねえ」
   なんていうものですから、それなら、きもだめしをしようということになりました。
   そこで村人たちは、暗いお寺の山門から、いっそう暗くてぶきみなはかばへ、兵六をひっぱっていきました。
   はかばにくるとさっそく、ちょうちん(→詳細)のおばけが、きゅうにケタケタとわらいだしました。
  「ひゃあ、出た!」
   村人の何人かはにげだしました。
   でも兵六は、
  「おら、なんともねえ」
   古いどのところでは、ガイコツがとびだし、やなぎの木の下では、「うらめしや〜」と、ゆうれいが顔を出し、かさ小僧が「べえっ!」とおどしても、兵六はへいきです。
   村人たちはとっくににげだして、もうだれもいません。
   そして一人になった兵六は、本堂のまん中まできて、すわりこみました。
   本堂の主は、あの名高いアズキとぎです。
  「おばんでやんす。アズキとぎのだんな、ちょっくら顔を見せてくだせえ」
   兵六がこういうと、とつぜんいなびかりがして、なにやらいんきな声が聞こえてきました。
  「アズキとぎましょか? 人とって食いましょか? ショキショキ、ショキ。ショキショキ、ショキショキ」
   兵六は、アズキとぎの声にあわせて、同じようにいいました。
  「しょきしょきしょき。だんな、ほかにいうことはないんですかい?」
   いくらアズキとぎが兵六をこわがらせようとしても、ちっともこたえません。
   アズキとぎは、とうとうこまりはててしまって、
  「ええい、これでもくらえ!」
   ドドドドドッ!
   天じょうから落ちてきたのは、それはそれは大きなぼたもちでした。
   そのあまいこと、おいしいこと。
   それからというもの、兵六は、夜な夜なお寺に出かけて、アズキとぎのぼたもちをごちそうになるようになりました。
   このうわさをきいた村人たちは、ぼたもちを食べたくて、兵六といっしょにお寺にきました。
  「おばんでやんす。今夜は村の衆もつれてきやしたで、ひとつ、でっかいぼたもちをおねげえしますだ」
   ところがどうしたことか、そのばんにかぎって、一つまみのあんこも落ちてきません。
  「だんな、ぼたもちを出してくれねば、おら、うそつきになってしまうだ!」
   はらをたてた兵六が、どなったとたん、いなびかりがして、天じょうからなにやらドサンと落ちてきました。
  「なんだこりゃ? ナスのつけものでねえか。ぼたもちはどうしただ?」
   すると天じょうから、あわれな声がひびきました。
  「毎度毎度、ぼたもちはないわい。たまにはナスのつけものでお茶でも飲んでけれ。これがほんとの、もてナスじゃ!」
と、へたなダジャレをいって、もう二度と出てこなかったそうです。
おしまい