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1月29日の日本の昔話
  
  
  
  聴き耳ずきん
 むかしむかし、まわりをグルッと山でかこまれた山おくに、一人のおじいさんがすんでいました。
   おじいさんは、毎日朝になると、しばを入れるしょいこをせおい、山へ入っていきました。
   そして、一日じゅうしばをかっているのです。
   きょうも、しばをいっぱいせおい、山から出てきました。
  「さて、ボツボツ帰るとするか。うん? あれはなんじゃ?」
   おじいさんが帰ろうとすると、子ギツネが一ぴき、いっしょうけんめい木の実をとろうとしていました。
  「はて、キツネでねえだか」
   この子ギツネ、足がわるいらしく、いくらがんばっても、うまく木の実がとれません。
  「よしよし、わしがとってやろう。よっこらしょ。さあ、これをお食べ。それじゃあ、わしはいくからな」
   子ギツネは、おじいさんのしんせつがよほどうれしかったのか、いつまでもいつまでも、おじいさんの後ろすがたを見送っていました。
   そんなある日、おじいさんは町へ買い物に出かけましたが、帰りがすっかりおそくなってしまいました。
  「いそがなくては」
   すっかり暗くなった日ぐれ道を、おじいさんがいそぎ足でやってきますと、おかの上で子ギツネが待っていました。
  「あれまあ、こないだのキツネでねえだか」
   なにやら、しきりにおじいさんをまねいているようすです。
   おじいさんは、キツネの後をついていきました。
   子ギツネは、わるい足をひきずりながら、いっしょうけんめいに、おじいさんをどこかへあんないしようとしています。
   ついたところは、竹やぶの中のキツネのすみかでした。
  「ほう、ここがおまえの家か」
   キツネの家には、お母さんギツネがおりましたが、病気でねたきりのようです。
   お母さんギツネが、なんどもなんどもおじいさんにおじぎをしています。
   息子を助けてもらったお礼を、いっているようにみえました。
   そのうち、おくからなにやらとりだしてきました。
   それは、一まいの古ぼけたずきんでした。
  「なにやら、ばっちいずきんじゃが、これをわしにくれるというのかね。では、ありがたくいただいておこう」
   おじいさんは、お礼をいってずきんをうけとると、もときた道を一人で帰っていきました。
   子ギツネは、いつまでもおじいさんを見送りました。
   さて、あくる日のこと。
   おじいさんが庭でまきをわっていますと、ヒラリと、足もとになにかがおちました。
  「これはゆんべ、キツネからもらったずきんじゃな。・・・ちょっくらかぶってみるか」
   おじいさんはずきんをかぶって、またまきわりをはじめました。
   すると、
  「うちのていしゅときたら、一日じゅう巣の中でねてばかり。いまごろは、すっかり太りすぎて、とぶのがしんどいなぞというとりますの」
  「ほう、やせのちゅん五郎じゃった、おたくのていしゅがのう」
   なにやら聞いたこともない話し声が、おじいさんの耳に聞こえてきました。
  「はて、たしかに話し声がしたが、だれじゃろう?」
   家の中をのぞいてみましたが、だれもおりません。
  「うら林のちゅん吉が、はらがいたくてすっかり弱っとるそうじゃ」
  「それは、木の実の食べすぎじゃあ」
   おじいさんは、また声に気がつきました。
  「おかしいのう。だれか人がいるようじゃが、やっぱりだれもおらん」
   おじいさんは、家をグルリとひとまわりして、ヒョイと上を見上げました。
  「うん? もしかしたら、このずきんのせいでは」
   おじいさんは、ずきんをぬいだりかぶったりしてみました。
  「やはりこれか」
   キツネがくれたこのずきんは、これをかぶると、動物や草や木の話し声が聞こえるという、ふしぎなずきんだったのです。
   おじいさんは、キツネがこんなにたいせつなものを自分にくれたことを、心からうれしく思いました。
   さて、つぎの日から、おじいさんは山へいくのがこれまでよりも、もっともっと楽しくなりました。
   ずきんをかぶって山へ入ると、小鳥や動物たちの話し声が、いっぱい聞こえてきます。
   えだに止まって話している小鳥。
   木の上で話しているリス。
   みんな楽しそうに話しています。
   おじいさんは、山でしばをかりながら、小鳥や動物のおしゃべりを聞くのが楽しくてしかたありません。
  「わたしゃ、のどをいためて、すっかり歌に自信がなくなっちまった」
  「そんなことございませんよ。とってもよいお声ですわ」
  「そうかな、では、いっちょう歌おうかな」
   なんと、虫の話し声まできこえるのです。
   おじいさんはこうして、夜どおし虫たちの歌声に耳をかたむけていました。
   一人ぐらしのおじいさんも、これですこしもさびしくありません。
   そんなある日のこと。
   おじいさんが、山からしばをせおっておりてきますと、木の上でカラスが二羽、なにやらしゃべっています。
   おじいさんは「きき耳ずきん」をとりだしてかぶり、耳をすましますと、
  「長者(ちょうじゃ→詳細)どんの娘がのう」
  「そうよ、もう長いあいだの病気でのう。この娘の病気は、長者どんの庭にうわっとる、くすの木のたたりじゃそうな」
  「くすの木のたたり? なんでそんな」
  「さあ、それはくすの木の話を聞いてみんとのう」
   カラスのうわさ話を聞いたおじいさんは、さっそく長者の家をたずねました。
   長者は、ほんとうにこまっていました。
   一人娘が、重い病気でねたきりだったからです。
   おじいさんはその夜、くらの中にとめてもらうことにしました。
   ずきんをかぶって、待っていますと。
  「いたいよ。いたいよ」
   くらの外で、くすの木のなき声らしきものが聞こえます。
   くすの木に、なぎの木とはい松が声をかけました。
  「どうしました、くすの木どん?」
  「おお、こんばんは。まあ、わたしのこのかっこうを見てくだされ。新しいくらが、ちょうどこしの上にたってのう。もう、苦しゅうて苦しゅうて」
  「それは、お困りじゃのう」
  「それでのう、わしは、こんなくらをたてた長者どんをうらんで、長者どんの娘を病気にして、こまらせているんじゃ」
   くらの中のおじいさんは、くすの木たちのこの話を聞いて、すっかり安心しました。
  (くらをどかしさえすれば、娘ごのやまいは、かならずよくなる)
   つぎの日。
   おじいさんは、長者にこのことを話しました。
   長者は、すぐにくらの場所をかえることにしました。
   それから何日かたって、くらの重みがとれたくすの木は、元気をとりもどして、青い葉をいっぱいにしげらせたのです。
   長者の娘も、すっかり元気になりました。
   長者は大よろこびで、おじいさんにいっぱいのお宝をあげました。
  「これは、キツネがくれたずきんのおかげじゃ。キツネの好物でも買ってやるべえ」
   おじいさんは、キツネの大すきな油あげを買って、山道を帰っていきました。
おしまい