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1月30日の日本の昔話
大いびき善六
むかしむかし、善六(ぜんろく)という木びき(木を切り倒す仕事)がいました。
大男のくせになまけ者でしたから、一日かかっても仲間の半分ほどしか仕事がはかどりません。
「善六かよ、あいつはとてもものになるめえ」
みんなは善六を、「木びき」でなく「小びき」だと、ばかにしておりました。
善六もおもしろくありません。
そこで、近くの神社にお参りをして、日本一の大びきになれるに、願をかけることにしました。
「なにとぞ神さま、神社の前に寝そベっている、大きな石のウシをひけるほどの力をさずけたまえ」
やがて満願(まんがん→願かけが終わる日)の日がきました。
善六はためしに、寝そべりウシをひいてみることにしました。
ギイコー、ギイコー・・・
善六のノコギリは、たちまち石づくりの大きなウシを、まっ二つに切り割ってしまいました。
「やった! もう今までの、小びきの善六ではないぞ。これからは、大びきの善六さんと呼んでもらおうか」
ところが、山へ入って仕事にとりかかったものの、さっぱりノコギリが動きません。
ようすを見ていた親方が笑いました。
「善六よう。願かけがまちがってたんじゃねえか。木びきは木をひくのが仕事だ。おまえは石をひくことしか頭になかったろうが」
善六は、ハッと目がさめました。
「そうだ、おらは力持ちをよいことに、いばっていたかもしんねい。もいっペん神さまにお願いしてみよう」
善六の目からは、ポタポタと涙がこぼれていました。
「神さま、おらはちっこい丸太をひくことからやりなおしてみます。どうかお守りくださいまし」
善六が一晩じゅうかかって、やっと一本の丸太をひき終えたとき、善六の腕には、まるで石のような力こぶができていました。
その日から、善六は人が変わったように、仕事にはげみました。
はげむにつれて、その仕事のたしかさが評判になっていきます。
あるとき、江戸の工事現場ヘ出かけたことがありました。
主人は大きなノコギリを背負って現れた善六を見ると、ちょっとからかってやろうと思いました。
「おい若い衆。ひいてみな。ただしスミのとおりだぞ」
と、大きな丸太に、スミで波のような模様(もよう)をえがいたのです。
「はい」
善六は短く返事をすると、たちまち、波のような模様をひき終えました。
大ノコギリ一つで、これほどのむずかしい模様をひき切るのは、たいした腕前です。
「まいったまいった。こりゃあ、たいしたもんだ」
こうして善六の名は、江戸でも有名になりました。
木びきの仲間たちは、
「善六かよ。ありゃあ、ただの木びきじゃねえ。大びきというもんだ。あのくらいのひき手は、広い江戸にも、ほかにあるみゃあよ」
と、うわさしたそうです。
おしまい