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2月13日の日本の昔話

とろかし草

とろかし草

 むかしむかし、あるところに、清兵衛(きよべえ)というきこりがおりました。
 ある日のこと、清兵衛が木を切っておると、
「助けてくれ〜っ!」
と、いうさけび声が聞こえてきました。
 首をのばしてみると、うわばみ(→大蛇)が、一人の旅人を追いかけているところでした。
 清兵衛は、大あわてでそばの木によじのぼります。
 そして木の上から見ていると、旅人は清兵衛の目の前で、うわばみにパクリと飲みこまれてしまいました。
 うわばみのはらは、大きくポッコリとふくれあがります。
 そのうち、うわばみは草むらの中にあった黄色い草を食べはじめました。
 すると、ポッコリふくれあがったはらが、スーッと細くなったのです。
「なんじゃ。あの草は、食べたものをとろかすんだな」
 うわばみがいなくなると、清兵衛は草むらの中をさがしまわって、うわばみが食べていた草をさがしました。
 そして、その草を見つけると、ひとつかみぬいてふところに入れ、いちもくさんににげ帰りました。
 村へ帰ると、清兵衛はうわばみのことを話しました。
 だけど、あの草のことは、だれにも話しませんでした。
 つぎの日、命びろいのおいわいをしようということになって、みんなは清兵衛の家に集まったのです。
 おいわいといっても、山の村のことで、たいしたごちそうはありません。
 手打ちソバをさかなに、酒を飲むだけです。
 そのうち、村一番の長者(ちょうじゃ→詳細)といわれる男が、こんなことをいいだしました。
「どうじゃ、山もりにもったソバを、つづけて五はい食えるもんがおったら、田畑一反(土地の単位で、約300坪)、やってもええ」
 村人たちはわらいだしました。
「長者どん、そりゃむりじゃよ。うわばみじゃあるめえし。ハハハハハ・・・」
 ところが、清兵衛がなのり出ました。
「よし、わしがやっちゃるわい!」
「清兵衛どん、いくらなんでも、そりゃむりだ。いくらおまえが大のソバずきでもよ」
 清兵衛は、まわりのものが止めるのも聞かず、ソバを食べはじめました。
「え〜い、めんどくさい」
 清兵衛は、ソバにつゆをかけ、大きなどんぶりでガツガツ食べます。
「へえ、なかなかたいしたもんじゃねえか。あれはソバを食ってんじゃねえ。ソバのほうから口の中へ入ってるんだ。おいらたちではああはいかねえ」
 清兵衛は、一ぱい、二はい、三ばいまではなんとか食べましたが、四はいめからは、どうしても食べられません。
 おもしろがって見ていた村人たちも、清兵衛のようすがおかしいのに気がつきました。
「清兵衛どん、どうした。だいじょうぶか? だいぶ苦しそうだが」
「はあ、はあ、はあ」
「清兵衛どん、もうやめろよ。むりだよ」
 村人たちが止めても、清兵衛は、意地でもやめません。
「こうなったら命がけじゃあ」
「命がけなんて、おだやかじゃねえ」
 みんなは心配しましたが、清兵衛は大きなおなかをかかえて立ちあがると、
「ちょっくら、便所へいってくるけん」
 清兵衛は、便所の中に入ると、ふところからなにやらとり出しました。
 それは、あのうわばみが食べていた黄色い草でした。
 それから、いくら待っても清兵衛は便所から出てきません。
「お〜い、いつまで入っとるんじゃ」
 村人たちは、ドンドン、ドンドンと、便所の戸をたたきます。
 便所の中でたおれているんじゃないかと、みんなは心配になってきました。
「清兵衛どん! 清兵衛どん!」
 いくらよんでも返事がないので、とうとう戸をぶちやぶって便所の中へ入ってみると、
 なんとまあ! 便所の中には清兵衛のすがたはありません。
 ようく見ると、清兵衛の着ていた着物だけがのこっていました。
 あの草は、食べたものをとかす草ではなく、人間をとかす草だったのです

おしまい

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