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4月2日の日本の昔話
  
  
  
  千里の靴
 むかしむかし、あるところに、まずしい親子が住んでいました。
   母親は三人の息子のために、寝るまもおしんで働きましたが、暮らしはいっこうに楽になりません。
   そこで母親はある日、息子たちを家から連れ出すと、山奥へ入っていきました。
  「おっかあ、どこへいくだ?」
   子どもたちがたずねると、母親は、
  「いいとこへ連れていってやるから」
  と、答えるだけです。
   そして、森の奥まで来ると、
  「ここでジッと待ってろや。うまい木の実をとってやるから」
  と、そういうなり、
  「かんにんなあ・・・」
  と、逃げ出してしまいました。
   そうとも知らずに待っていた子どもたちは、日もくれて心細くなってくると、
  「おっかあ!」
   母親を呼んで、泣きだしました。
   そのとき、末っ子が二人の兄をなぐさめました。
  「あそこに家のあかりが見えるぞ。いってみベえ」
   末っ子が、ベソをかく兄たちを引っぱって家へいってみますと、ひどいあばら屋に、おばあさんがひとり、いろりに火をくベています。
  「道に迷って帰れん。とめてけれ」
   末っ子がたのみますと、
  「とめてやりたいが、ここは鬼の家じゃ。鬼が帰ってくれば、とって食われるぞ」
   おばあさんが答えるまもなく、鬼の足音が近づいてきました。
   おばあさんは急いで、三人の子をかくします。
  と、帰ってきた鬼は鼻をひくつかせて、
  「くせえぞ、くせえぞ、人間くせえぞ。だれかいるのか?」
   おばあさんにたずねました。
   おばあさんは、
  「じつは、人間の子が三人たずねてきたが、今しがた逃げ出しただよ」
   そう、答えました。
   そのとたん、鬼はひと駆け千里のくつをはくと、表へ飛び出しました。
   そのすきにおばあさんは、子どもたちをうら口から逃がしてやります。
   ところが、子どもたちの逃げ出した道は、鬼の駆け出した道といっしょでした。
   やがて子どもたちは、走り疲れて寝ている鬼を見つけました。
  「わあ、どうするベえ」
   兄たちがうろたえるのを、末っ子は押しとどめると、鬼の足からそっと千里のくつをぬがせ、ふたりの兄の足にはかせて、自分は兄たちの背中につかまって、
  「さあ、千里のくつで、家までひとっ飛び!」
   兄たちにいいました。
   その声で鬼は目をさましましたが、千里のくつで逃げ去っていく子どもたちを、追いかけることはできません。
   こうして三人の子が家につくと、母親はおどろくやらよろこぶやら、
  「ごめんね。もう二度と、おまえたちをすてたりはせんよ!」
   涙を流して抱きしめるのでした。
   子どもたちはつぎの日から、千里のくつを使って働き、大金持ちになったということです。
おしまい