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4月14日の日本の昔話
  
  
  
  しびれのくすり
 むかしむかし、あるところに、たいへんケチで、せつやくをじまんしている男がいました。
   おならを一つしても、むだにはしません。
  「おならは、こやしになるいきだ」
  と、言って、おならを紙ぶくろに入れ、はたけの土の中にいけてくるほどでした。
   あるばん、あまりじまんするので、じまんのはなをへしおってやりたいものだと、一人の友だちが男の家をたずねて行きました。
   家に入ってみると、中はまっくらです。
   明かりをつけるのを、せつやくしてるんだなと思って、よく見ると、男がくらやみの中に、すっぱだかになってすわっています。
  「おい、おい、はだかになって、何をしてる?」
  「これもせつやくよ。こうしていれば、きものもいらんからな」
  と、男はすましていいます。
  「せつやくもいいが、秋も終わりで、そろそろさむくなる。かぜでもひいたらどうする」
  「かぜどころか、あせがながれてこまるくらいよ」
  「これはまた、どうして?」
   友だちがおどろいてきくと、
  「あれを見ろ、あれを」
  と、男が言います。
   見ると、天じょうに岩のように大きい石が、ほそいひもでしばってつるしてあります。
  「あのひもがいつ切れるかと思いや、こわくてあせが出る」
   これには、友だちもビックリしました。
   ヒヤヒヤしながら、せつやくのじまん話を聞いて、さて、帰ろうとすると、くらくてげたが見つかりません。
  「ちょっと、明かりをかしてくれないかい」
   友だちがたのむと、男はものも言わず、土間(どま→家の中で地面のままのところ。この場合は台所)におちていたまきで、友だちの頭をなぐりました。
  「いてえ! 何をする。目から火が出た!」
   友だちがさけぶと、男はすかさず言いました。
  「その火で、げたをさがしてくれや」
  「・・・・・・」
   あきれた友だちは、頭のこぶをなでながら帰りました。
  「まったく、ひどいめにあった。そのうちに、きっと、じまんのはなをへしおってやる」
   間もなく、その年もくれてお正月になりました。
  「よし、いいことを思いついた。これならあいつもかなうまい、きょねんのしかえしができるぞ」
   わらしべを一本、ていねいに紙につつんだものをもって、新年のあいさつに行きました。
  「これで、キセル(→詳細)についた、ヤニでもとっておくれ」
  (さすがに、これいじょうケチな物は、あいつにも用意できないだろう)
  と、友だちは思いましたが、さすがはケチ男、今度は友だちの家に新年のあいさつに来て、紙につつんだものを出しました。
   見るとそれは、あのわらしべを小さく切ったものです。
  「これは、ほんのお年玉だが、しびれのくすり(そのむかし、わらをきざんだ物は、しびれにきくとされていました)にでもしておくれ」
   これには友だちも、あいた口がふさがらなかったということです。
おしまい