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4月24日の日本の昔話
  
  
  
  ひとをおそうキノコ
 むかしむかし、ある山のなかに古いやしろがありました。
   なんでも、やしろのまわりには、おいしいキノコがはえているというので、まい年秋になると、近くの村びとたちがキノコとりにでかけます。
   ある年のこと、キノコとりにでかけた男が、夜になっても、もどってきませんでした。
   村びとたちがしんぱいして、つぎの日の朝早く山のなかへいきましたが、どこへきえたのか、男の持ちものひとつのこっていません。
  「神かくしにでも、あったのだろうか?」
  「いや、そんなはずはない」
   村びとたちは、やしろのなかまで、ていねいにさがしてみました。
   それでも、まるで人のいる様子はありません。
   ところが、しばらくたって、キノコとりにいった老婆(ろうば)が、またもゆくえふめいになりました。
   おまけに、その老婆をさがしにいった嫁さんまでも、もどってこないというのです。
   こんどは村じゅうそうでで、やしろの近くばかりでなく、山のなかのあちこちをさがしてみましたが、ついにみつけだすことができませんでした。
   そんなことがあってから、この山のなかへキノコとりにいくものは、ひとりもいなくなりました。
   さて、ふもとの村に、近所でもひょうばんのきもっ玉の太いわかものがいました。
   わかものは、
  「いまどき、神かくしなんてばかなことがあるものか。もしかして、かいぶつがかくれているのかもしれない。よし、わしが正体をみとどけてやる」
  と、いって、ひとりで山へでかけていきました。
   ついでに、だれもとりにいかないキノコを、ドッサリととってこようとおもいました。
   やしろのそばにくると、おいしいキノコが、あちこちにはえています。
   わかものはむちゅうになってキノコをとり、カゴのなかに入れました。
   それでも、ときどき手をとめて、あたりのようすをさぐってみましたが、かいぶつらしいものはどこにもいません。
  (よし、こん夜はここのやしろにとまってみよう。きっとかいぶつがあらわれるにちがいない)
   わかものはやしろのなかに入ると、ゆかの上へ大の字になりました。
   そのうち、ねむたくなってウトウトしていたら、だれかが足をひっぱります。
  「だれだ!」
   わかものが、ハッと目をあけると、なんと、ゆかの上に人間の手のような大きなキノコがはえていて、足をひっぱっているのです。
  (まさか、キノコがひとをひっぱるなんて)
   さすがのわかものもビックリして、おばけキノコをにらみつけました。
   すると、おばけキノコはゆかのやぶれから下へ、スルスルと、ひっこんでしまいました。
  「待てえ!」
   わかものはゆか板をはがして、下へとびおりました。
   明りをつけて、くらいゆか下をてらしてみるとどうでしょう。
   あちこちにひとの骨がちらばっていて、さっきのおばけキノコが、のびたりちぢんだりして、ゆらゆらゆれています。
  (さては、このおばけキノコが、キノコとりのひとをおそったな)
   わかものは、ゆか下にころがっていたぼうきれをひろうなり、おばけキノコのかさをなぐりつけました。
   ところがふしぎなことに、キノコのかさがこわれても、あっというまに新しいかさができて、おまけに胴のぶぶんがグングンとのびてきて、わかもののからだにまきつこうとします。
   そのとき、わかものは「キノコはみそ汁によわい」と、いう、年よりのことばをおもいだしました。
   わかものはゆかのはしをつかんで上へあがると、やしろをとびだし、大いそぎで家にもどりました。
   それからなべにたっぷり水とみそをいれ、ぐらぐら煮たてました。
   あついみそ汁ができあがると、しっかりとふたをして、なべごと山へはこんでいきました。
   やしろのなかへ入ると、おばけキノコはゆかの上までのびていて、ゆっくりかさを動かしています。
  「これでもくらえ!」
   わかものはなべのふたをとるなり、あついみそ汁を、おばけキノコにかけました。
   すると、おばけキノコは、みるみるちぢまっていき、ついになくなってしまいました。
  「やれやれ。これで、もう二どとひとをおそうことはあるまい」
   わかものは村へもどると、みんなにおばけキノコのことをはなしました。
   みんなはビックリするやらふしぎがるやら、さっそくなくなったひとの骨を村へはこんで、ねんごろにとむらってあげたそうです。
おしまい