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4月26日の日本の昔話
  
  
  
  あき寺の大入道
 むかしむかし、旅の僧がやってきて、村はずれのあき寺へとまることにしました。
   やねはかたむき、かべははんぶんほどもくずれおちていて、まるでおばけやしきです。
  (それにしても、なんてひどいあれようだ)
   僧はクモの巣をはらい、本堂のゆかの上にすわりました。
   そのゆかも、あちこちがやぶれていて、ゆか下から草がのびています。
   いろんなあき寺にとまりましたが、こんなひどい寺ははじめてです。
  (まあ、草の上にねるよりはましだ)
   僧は、旅のとちゅうでもらったにぎりめしを食べると、ほこりだらけのゆかの上へよこになりました。
   やがて日がしずんで、あたりがくらくなりました。
   その晩は空がくもっていて、月もでません。
   風がでてきたらしく、庭の草がザワザワとゆれています。
   僧は、なかなかねつけず、ゆかの上にすわりなおすと、ゆっくりお経をとなえはじめました。
   すると、ゆかがゆれだし、ミシッ、ミシッという足音が近づいてきます。
   僧はにもつのなかから、煮たき用の鉄なべをだして頭にかぶり、しっかりとつえをにぎりました。
   顔をあげると、目の前に大入道がたっています。
   目玉が三つに、大きな歯がふたつ。
   大入道は目玉をギラギラ光らせながら、僧のそばへ近よると、いきなり太いうでをふりあげ、僧の頭をたたきました。
   ガーン!
   頭にかぶった鉄なべが、大きな音を立てました。
  「なんて、なんてかたい頭だ」
   鉄なべをかぶっているとも知らず、大入道はおどろいたようにいいました。
   それでも僧はつえをつかんだまま、ジッと大入道をみあげました。
   するとふたたび大入道がいいました。
  「さっさと、でていけ! ここはわしのすまいだ。ぐずぐずしているとひねりつぶすぞ!」
   そのとたん、僧はつえをつかんでとびあがるなり、
  「かぁぁぁっ!」
  と、さけんで、大入道の頭につえをふりおろしました。
  「ギャーッ!」
   ふいのこうげきに、大入道はドタリと、僧の前にたおれこんできました。
   僧はその頭めがけて、
  「えい、えい、えい!」
  と、つえをうちおろしました。
   すると、大入道のすがたがみるみるきえて、なぐられた頭が小さな木のかたまりのようになりました。
   僧は、そのかたまりをつかむと、庭にむかって力いっぱいなげつけました。
   ガシンッ!
   かたまりは、庭にある大きな石にあたってわれました。
   それっきり、あたりはしずかになりました。
   あやしいものは、もう二どとでてくるようすがありません。
   それでも、僧はねむることができず、朝までゆかの上にすわっていました。
   やがて夜が明けました。
  「さて、大入道の正体は、いったい、なにものなのか?」
   僧が明るくなった庭へでてみると、なんと、まっぷたつにわれた古げたがころがっていました。
  「タベの大入道は、げたのおばけであったか」
   僧は、われた古げたを本堂のすみにおくと、ゆっくり寺をでていきました。
おしまい