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6月13日の日本の昔話
  
  
  
  どろぼうたいじのへ
 むかしむかし、あるところに、なまけものの男がいました。
   はたらきにでても、ながくはつとまりません。
   たちまち、家にかえされてしまうので、びんぼうしきっていました。
   男はそこで、村のちんじゅさまにおまいりして、
  「どこかに、よいはたらき口がみつかりますように」
  と、おねがいしました。
   すると、ちんじゅの神さまは、めったにおがんでくれるものがないものですから、よろこんで、
  「よろしい。おまえのたのみをききとどけて、めずらしい『へ』をさずけよう」
  と、おごそかにいいました。
  「へっ?」
   男はガッカリです。
   へなどもらったところで、なんのやくにもたちません。
  「こら、もっとよろこばんか。へといっても、ただのへではないぞ。このへは、プウーとかスウーとか、そんなケチななりかたはせん。ダリャ! ダリャッ!(だれだ、だれだ)と、でっかい音がする。これで、おまえにはきっと、よいはたらき口がみつかるはずじゃ」
   ちんじゅの神さまのこえは、それっきり、きこえなくなってしまいました。
  「ああ、せっかくおがんだのに、へしかさずけてもらえんとは」
   男がはたらき口をさがしにいくと、まもなく、やとってくれるところがみつかりました。
   ところが、男がときどき、
  「ダリャ、ダリャッ!」
  と、音のでっかいへをするものだから、
  「うるさくてこまる」
  「なんと、ひとさわがせなへをこくやつだ」
   たちまちきらわれて、ひまをだされてしまいました。
  「これでは、はなしがちがうわい。せっかく、よいはたらき口が見つかったのに、おいだされていくところもない」
   男が村はずれで、とほうにくれていると、男のうわさをきいた長者(ちょうじゃ→詳細)のつかいがきて、
  「長者さまのおやしきで、はたらかねえか」
  と、いってくれました。
  「それはありがたい。ねがってもないはなしだ」
   男はこうして、長者のやしきではたらくことになりました。
   男のしごとは、やしきにあるくらのものを、どろぼうにとられないように、みはりばんをすることです。
  「これなら、おらにもつとまりそうだ」
   男はまいばん、やしきのくらに入って、みはることにしました。
   けれども、いくばんたっても、どろぼうがあらわれないものだから、あるばん、男はすっかりゆだんして、くらのなかでグッスリとねむってしまいました。
   そこに、どろぼうがしのびこんできました。
  「しめしめ、だれもおらんぞ」
   どろぼうがあんしんして、めぼしい品物を、ふろしきにつつみはじめると、
  「ダリャ、ダリャッ!」
   いきなり、大きなこえがしました。
   どろぼうは、それがまさか、へだとは思いません。
  「しまった!」
   てっきり見つかったと思って、あわてて、にげだそうとしました。
   けれど、だれもかけつけてくるようすがありません。
   気をとりなおして見回すと、男が一人、だらしなくねむっています。
  「なんだ。こいつのへの音か。おどかしやがって」
   どろぼうはおこって、男のしりに、落ちていたたるのせんをつめました。
  「これでよし」
  と、きもちをおちつけて、しごとにかかりました。
   そしていよいよ、ぬすんだものをかつぎだそうとしたときです。
   男のしりにつめてあったたるのせんが、スポーンとぬけたから、たまりません。
   たまっていたへが、
  「ダリャ、ダリャッ、ダリャーッ!」
   やしきじゅうに、ひびきわたりました。
   それをききつけたやしきのものが、すぐさまかけつけたので、どろぼうは、あっさりつかまってしまいました。
  「でかした、でかしたぞ。おまえのみごとなはたらきで、どろぼうたいじができた。しかも、いままでぬすまれた物も取り返すことができた」
   男は長者から、たくさんのほうびをもらったということです。
おしまい