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6月16日の日本の昔話
光る玉
むかしむかし、ある町に、よくのふかい和尚(おしょう→詳細)さんがいました。
ある日のこと。
和尚さんが、壇家(だんか→むかしから付き合いのある家)のおつとめにいきましたが、かえりがおそくなってしまいました。
カゴにのってかえればよいものを、よくのふかい和尚さんはお金がもったいないと、ひとりで夜道をトコトコトコトコ歩いてかえってきました。
壇家でごちそうになったお酒が、ホロホロとまわってきて、とてもいい気持ちです。
代宮橋(だいかんばし)までかえってくると、橋のてすりの上に、ピカリピカリと光るものがありました。
見れば、たいそう美しい玉です。
和尚さんは、よろこんで、
「こりゃあ、けっこうなおさずけもんがあるわい。さっそく、いただいてかえりましょう」
それをつかんで、ふところへ入れようとすると、光る玉はコロコロコロころがって、先のほうでとまりました。
和尚さんは、
「これこれ、かってにころがるでない。きずがつくわい」
と、そばへいって、ひろおうとしました。
すると玉は、またキラキラ光りながら、コロコロコロッと、先のほうへころがっていきます。
ころがってもころがってもよごれずに、ピカリピカリと光っています。
和尚さんは、ますますその玉がほしくなって、
「こりゃまて。こりゃまて」
と、追いかけていくうちに、もらってきたおふせも、ごちそうのつつみも、だいじなじゅず( 仏・菩薩を礼拝する時に手にかける用具。小さい珠を108個、糸に貫いて作ります。108個あるのは、人間の持つ108の煩悩をうちけすため。宗派によって54・27・36・18個のものあります)も、みんなおとしてしまい、とうとう、もとの町の中までもどってしまいました。
町の人は、和尚さんがフーフーいいながら追いかけているのを見て、
「それ。みんなで、和尚さんを手つどうてやれ」
と、和尚さんのあとから、みんなして光る玉を追いかけました。
そのうちに、玉は町はずれの百姓(ひゃくしょう→詳細)家の庭へ、コロコロコロッと、ころがりこんだかと思うと、
ピョンと、やぶれた障子(しょうじ)の穴から、家の中へとびこんでしまいました。
「それっ!」
と、みんなが中へ入ると、百姓がひとり柱にもたれて、大きな口をパックリ開けてねむっていました。
玉はその口の中ヘ、ピョーンと、入ってしまいました。
「ありゃ、ありゃ」
「こりゃまあ、どうしたこっちゃい」
和尚さんも町の人もビックリして、
「これ、これ。・・・えい、これ、おきんかい!」
と、百姓をゆさぶりおこすと、
「おまえ、いま、その大きな口で、なにを食ったんじゃい」
と、聞きました。
百姓は、目をパチパチさせて、
「わしは、なにも食いはせん。いまやっとのことで、家へもどってきたとこですわい。ああ、しんど」
「なに? 家へもどったところじゃと」
「へえ、わしゃ、用がありまして、さっき代官橋(だいかんばし)までいきましたら、どこの人やらしれんが、いやもうおそろしい人においかけられて、にげてにげて、やっといま、家にもどったとこですわい。ほれ、胸がこのように、ドキドキしとります」
百姓のことばをきくと、町の人はひどくおかしくなってきて、みんなでクスクスとわらいだしました。
「さては和尚さんは、ここのおやじさんのたましいをおいかけてござったんじゃ」
「それにしても、和尚さんの足のはやいこと」
和尚さんはきまりがわるくなって、あわててその家をとびだすと、ショボショボと家へかえりました。
そして、
「それにしても、百姓のたましいってものは、きれいなもんじゃなあ」
と、つぶやいたそうです。
おしまい