4年生の日本昔話
子育て幽霊
むかしむかし、ある村に、一軒のアメ屋がありました。
ある年の夏の事、夜も遅くなったので、アメ屋さんがそろそろ店を閉めようかと思っていると、
トントントントン
と、戸を叩く音がしました。
「はて、こんな遅くに誰だろう?」
と、アメ屋さんが戸を開けてみますと、一人の女の人が立っていました。
「あの、アメをくださいな」
「あっ、はい。少々お待ちを」
アメ屋さんは女の人が持ってきたうつわに、つぼから水アメをすくって入れました。
「へい。一文(いちもん→30円ほど)いただきます」
「ありがとう」
女の人はお金を払うと、消えるように行ってしまいました。
その次の日。
今日もアメ屋さんが戸締まりをしようと思っていると、また戸を叩く音がします。
「あの、アメをくださいな」
やはり、あの女の人でした。
女の人は昨日と同じようにアメを買うと、スーッと、どこかへ帰って行きます。
それから毎晩、女の人は夜ふけになるとアメを買いに来ました。
次の日も、その次の日も、決まって夜ふけに現れてはアメを買って行くのです。
さて、ある雨の夜。
この日は隣村のアメ屋さんが訪ねて来て、色々と話し込んでいたのですが、
「あの、アメをくださいな」
と、いつものように現れた女の人を見て、隣村のアメ屋さんはガタガタ震え出したのです。
「あ、あ、あの女は、ひと月ほど前に死んだ、松吉(まつきち)のかかあにちげえねえ」
「えっ!」
二人は、顔を見合わせました。
死んだはずの女の人が、夜な夜なアメを買いに来るはずはありません。
しかし隣村のアメ屋は、間違いないと言います。
そこで二人は、女の後をつけてみることにしました。
アメを買った女の人は林を抜け、隣村へと歩いていきます。
その場所は、
「はっ、墓だ!」
女の人は墓場の中に入っていくと、スーッと煙のように消えてしまったのです。
「お、お化けだー!」
二人はお寺に駆け込むと、和尚(おしょう)さんにこれまでの事を話しました。
しかし和尚さんは、
「そんな馬鹿な事があるものか。きっと、何かの見間違いじゃろう」
と、言いましたが、二人があまりにも真剣なので、仕方なく二人と一緒に墓場へ行ってみる事にしました。
すると、
オンギャー、オンギャー
と、
かすかに赤ん坊の泣き声が聞こえてきます。
声のする方へ行ってみると、
「あっ、人間の赤ん坊じゃないか! どうしてこんなところに?!」
和尚さんがちょうちんの明かりをてらしてみると、そばに手紙がそえられています。
それによると、赤ん坊は捨て子でした。
「手紙によると、捨てられたのは数日前。それから何日もたつのに、どうして生きられたんじゃ?」
ふと見ると、あの女の人が毎晩アメを買っていったうつわが、赤ん坊の横に転がっていたのです。
そして、赤ん坊が捨てられたそばの墓を見ると。
「おお、これはこの前に死んだ、松吉の女房の墓じゃ!」
何と幽霊が、人間の子どもを育てていたのです。
「なるほど、それでアメを買いに来たんだな。それも自分の村では顔を知られているので、わざわざ隣村まで」
きっと自分の墓のそばに捨てられた赤ん坊を、見るに見かねたにちがいありません。
和尚さんは心を打たれて、松吉の女房の墓に手を合わせました。
「やさしい仏さまじゃ。この子はわしが育てるに、安心してくだされよ」
こうしてお墓に捨てられた赤ん坊は、和尚さんにひきとられました。
それからあの女の人がアメ屋さんに現れる事は、もう二度となかったそうです。
おしまい
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