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7月10日の日本の昔話
  
  
  
  タヌキと彦一
 むかしむかし、彦一(ひこいち→詳細)と言う、とてもかしこい子どもがいました。
   彦一は、おかあさんと二人で、毎日畑へ出かけては、せっせとはたらいていました。
   ところが、彦一のうら山に、一ぴきのタヌキがすんでいて、毎日旅人にいたずらをしてはよろこんでいます。
   あるばんのこと、タヌキは旅人にばけると、彦一の家にやってきました。
  「こんばんは、ちょいとひと休みさせてくださいな」
   戸を開けた彦一は、これはうら山のいたずらタヌキにちがいないと思いましたが、知らぬ顔で家へまねき入れました。
   しばらくすると、タヌキは彦一にたずねました。
  「ところで彦一どんには、こわいものが何かあるのか?」
   彦一はうでをくんで、考えこむふりをしました。
  (タヌキめ、ひとつからかってやろう)
  「う〜ん、一つだけあった。でも、だれにもいわねえでくれよ。・・・じつは、まんじゅうがこわいんじゃ」
  「えっ? まんじゅうだって! アハハハハハッ、まんじゅうがこわいだなんて」
  「ああ、やめてくれ! おら、まんじゅうって聞いただけで体がふるえてくるだ。あ〜、こわいこわい」
  (こりゃ、いいことを聞いたぞ)
   タヌキは大よろこびで、山へ帰っていきました。
   つぎの朝、彦一が目をさましてみると、家の中に、ホカホカのまんじゅうが山ほどつまれてありました。
  「おっかあ、うめえまんじゅうがとどいたぞ。いっしょに食おう」
   彦一とおかあさんは、大よろこびでまんじゅうを食べました。
   ようすを見にきたタヌキは、だまされたことを知って、カンカンにおこりました。
  「くやしい! タヌキが人にだまされるなんて! このしかえしは、きっとするからな」
   そして、何日かがすぎたあるばん、タヌキは村じゅうの石ころをひろい集めて、彦一の畑にぜんぶほうりこんだのです。
  「ありゃ、たいへんじゃあ」
   おかあさんはビックリしましたが、彦一は少しもおどろきません。
  (これは、タヌキのしかえしだな)
   彦一は、わざと大きな声でおかあさんに言いました。
  「のう、おっかあ。石ごえ三年というて、ありがたいことじゃのう。石を畑にまくと、三年は豊作(ほうさく)だと言うからな。これがもしウマのフンじゃったら、えらいことじゃったよ」
   かくれて聞いていたタヌキは、彦一を困らせようとしてやったことなのに、またまたよろこばせてしまったので、くやしがるやらおこるやら。
   その晩、彦一の畑の石をぜんぶ運び出して、こんどこそ彦一をこまらせようと、せっせとウマのフンを彦一の畑にうめておきました。
   タヌキのまいたウマのフンは、とてもよいこやしになって、秋にはみごとな作物がドッサリととれました。
  「おらでは、どうしても彦一にはかなわねえだ。くやしいよう」
   作物の実った畑を見て、くやしなきするタヌキに、彦一が声をかけました。
  「おーい、タヌキどん。サツマイモを分けてやるぞ。おまえのまいたこやしがよくきいて、とてもでっかく育ったぞ」
   タヌキは彦一からサツマイモをいっぱいもらうと、おいしそうに食べました。
   それからは、タヌキはいたずらをやめて、うら山でおとなしくくらしたということです。
おしまい