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7月21日の日本の昔話
  
  
  
  うみぼうず
 むかしむかしの、ある夏のことです。
   漁師(りょうし)たちが海でさかなをとっていましたが、きょうは、おもうようにとれません。
  「もっと、おきへいこう」
  「そうだな。これでは、かせぎにならん」
   そこで、船をおきへうつすと、おもしろいようにとれました。
   ついつい、むちゅうでとっているうちに、とっぷりと日がくれてしまいました。
  「さあ、きょうは、もうかえるぞ」
   アミをしまっていると、波の中から、ぼうず頭のようなものが、うかびあがりました。
  「でっ、でたー! うみぼうずだー!」
   漁師はみんな、ふるえあがってしまいました。
  「なにをボヤボヤしている! はやく船をこいで、浜(はま)へにげるんじゃ!」
   せんどうの言葉に、漁師はハッと、われにかえると、けんめいに船をこぎはじめました。
   しかし、うみぼうずもおよいできて、ふなべり(船の側面)に手をかけました。
   そして、おそろしい声でいいます。
  「ひしゃく。ひしゃくをくれえ。ひしゃくをくれえー」
  「わかった、いまやる」
   漁師のひとりが、ひしゃくをわたそうとすると、せんどうは、そのひしゃくのそこをすばやくうちぬいて、ふなべりから、なるべくとおくになげると、
  「それ、いまのうちにこぐんだ」
   浜へと、いそぎました。
   うみぼうずは、ひしゃくをおいかけていきましたが、ひしゃくのそこがぬけていることに気がつくと、
  「よくもだましたな! まてぇー!」
   船をおいかけてきました。
   船のみんなが、かんいっぱつで、なんとかはまにかけあがると、うみぼうずはしばらく、うらめしそうに見ていましたが、やがてどこかへ行ってしまいました。
  「ああ、おそろしかった。しかしどうして、ひしゃくのそこをぬいて、とおくになげたんです?」
   まだ、ふるえのおさまらない漁師のひとりがきくと、せんどうは、こうこたえました。
  「これからもあることだから、よくおぼえておけよ。うみぼうずのいうとおり、そこのついたひしゃくをわたしたら、うみぼうずはそのひしゃくで、海の水を船にくみ入れて、さいごには船をしずめてしまうんだ。だから、かならずひしゃくのそこをぬいてわたさないと、いのちをうばわれてしまうのだ」
   それをきいて漁師のみんなは、さらにふるえあがりました。
おしまい