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 むかしむかし、きっちょむさんと言(い)う、とてもゆかいな人がいました。 
 このきっちょむさんの村の庄屋(しょうや)さんときたら、大がつくほどの骨董(こっとう→価値(かち)のある古(ふる)い美術品(びじゅつひん))ずきです。 
          古(ふる)くてめずらしいものは、どんなものでも集(あつ)めて、人がくると見せては、じまんしていました。  
         「おう、きっちょむさんか。よいところへきてくれた。おまえに見せたいものがある」 
         「まあ、そんな顔(かお)をせんと、とにかく見てくれ。なにぶんにも、天下に二つとない、りっぱな品(しな)じゃ」 
         「庄屋(しょうや)さん。これは、ネズミのほりものですね」 
 みごとなもんじゃ、左甚五郎(ひだりじんごろう)もはだしと、いわにゃなるまい。こんな名作(めいさく)を持(も)っておるものは、日本広(ひろ)しといえど、わしひとりじゃろう。ワッハハハハ」 
          庄屋(しょうや)さんが、あんまりじまんするので、きっちょむさんは、つい、  
  しかもそのほうが、ずっとようできております」 
         「おまえなんぞの家(いえ)に、そんなりっぱなものが、あってたまるかい!」 
         「わたしのは先祖代々(せんぞだいだい)の宝(たから)で、天下の名作(めいさく)です。庄屋(しょうや)さんのこんなネズミなんか、話(はな)しになりません」 
          きっちょむさんは家(いえ)に帰(かえ)りましたが、きっちょむさんの家(いえ)には、そんなネズミのほりものなどありません。  
  ・・・待(ま)てよ。うん、そうそう。これはうまくいきそうだ」 
          じつは、じぶんでネズミの名作(めいさく)を、作(つく)ろうというのです。  
 「できた。 
  これで、庄屋(しょうや)さんを負(ま)かすことができるぞ」 
 と、風呂敷(ふろしき)から、いかにもだいじそうに、ほりものをとりだして、 
         「どうです。このネズミこそ、ほんものそっくりでしょう」 
 「・・・? 
 ぶぶぶーっ!」 
         庄屋(しょうや)さんは、思(おも)わずふきだしました。  
          きっちょむさんのネズミは、しろうとの一夜(いちや)づくり。  
          それでもきっちょむさんは、じぶんのネズミのほうがすばらしいと、ほめちぎりました。  
  和尚(おしょう)さんにでも、たちあってもらおう」 
  ネズミを見わけるのなら、寺(てら)までいかずとも、ほれ、そこにおるネコのほうがよろしかろう」 
  なるほど。では、ネコのとびついたほうが勝(か)ちじゃ」 
 と、いうわけで、ふたりのネズミを床の間(とこのま)にならベて、ネコをつれてくると、これはビックリ。 
          ネコはいちもくさんに、きっちょむさんのネズミにとびつきます。  
  庄屋(しょうや)さん、やくそくどおり、このネズミはいただきますよ」 
 「なるほど。こりゃあ、りっぱなほりものじゃ。おかげで、家(いえ)にも宝(たから)ものができたわい」 
 じつは、きっちょむさんがひと晩(ばん)かかって作(つく)ったネズミは、ネコの大好物(だいこうぶつ)の、カツオブシでつくったネズミだったのです。 おしまい 
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