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8月16日の日本の昔話
  
  
  
  鬼がっ原の一つ目(→詳細)
 むかしむかし、でっち(→住み込みではたらく子供)の長吉(ちょうきち)が、鬼がっ原のむこうまで、つかいにいくことになりました。
   鬼がっ原は、ばけものがでるとひょうばんの原っぱです。
   長吉は、重いふろしきつつみをしょってでかけましたが、日はくれかかってくるし、なにやら心細くてたまりません。
   すると、
   ピタピタッ、ピタピタッ
   うしろから、きみょうな音がきこえてきました。
   長吉が足を止めると、一ぴきのイヌが、足もとを走りぬけていきました。
  (なんだ。イヌか)
   イヌは、むこうの大きな柳(やなぎ)の木のところまでいくと、きゅうにとまりました。
   ちっとも気がつきませんでしたが、前から、きれいな着物をきた小さな女の子が歩いてきます。
   イヌは、しきりにその女の子の足のまわりをうろつきます。
  「しっ! しっ!」
   女の子がいくら追っても、イヌはしつこくかぎまわって、そばをはなれません。
   そのうちに、
   ウウッー! ウウッー!
   イヌは、うなり声をあげました。
   女の子が、おびえたように立ちどまると、イヌは前にまわって、はげしくほえつきました。
   女の子はこわくなって、とうとう、泣きだしてしまいました。
  (おやおや、かわいそうに)
   長吉は、いそいで近づくと、持っていたかさをふりあげて、イヌを追い払いました。
   イヌはビックリしたようにとびのくと、長吉をジッとみつめていましたが、どこかへいってしまいました。
  「ありがとう」
   女の子が、すこしふるえた声で礼をいいました。
   だいぶ暗くなっていたので、女の子のかおはよく見えませんが、とうふをのせたおぼんを大事にかかえています。
  「たったひとりで、鬼がっ原のとうふ屋まで、いってきたのかい?」
   聞くと、女の子はコクンとうなずきます。
  (まだ小さいのに、かんしんなもんだ。この原っぱには、おばけがでるというのに)
   長吉は心の中でつぶやいて、女の子のうしろを歩きました。
   やがて雨がふってきたので、長吉はかさをひらくと、女の子にさしかけてやりました。
  「うちは、どこなの?」
  「あの橋の、すぐむこう」
  「じゃあ、おんなじ方角だ。いっしょにいこう」
   橋をわたり、竹やぶへ入ると、わらぶきの小さな家がありました。
   女の子の家です。
  「じゃ、さようなら」
   長吉がいうと、女の子も、
  「さようなら」
   そういって、顔をあげました。
  「あっ!」
   なんとその顔には、ひたいのまん中に、大きな目が一つあるだけでした。
おしまい