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8月20日の日本の昔話
  
  
  
  なまけ弁当
 むかしむかし、きっちょむさん(→詳細)と言う、とてもゆかいな人がいました。
   きっちょむさんは庄屋(しょうや→詳細)さんにお金を借りたので、その代金の代わりに、しばらくのあいだ庄屋さんの畑で畑仕事をすることになりました。
   ある日の夕方、きっちょむさんが畑から帰ってきて、
  「庄屋さん。今日は草をのこらず取りました。お弁当をこしらえていただいたおかげで、たいヘんはかどりまして、ありがとうございます」
  と、いうと、庄屋さんは、
  「はかどったといっても、何もおまえが仕事をしたわけじゃない。弁当が仕事をしたまでのことじゃ」
  「はあ、弁当がですか?」
   きっちょむさんは、首をかしげて家に帰りました。
   そのあくる日、きっちょむさんは庄屋さんに弁当をもらって、うら山の畑に出かけていきました。
   そして、畑のまんなかにクワを突きさすと、クワのえの先に弁当をしばりつけました。
   そして自分はすずしい木のかげヘいって、手足をのばして寝ころびました。
   お昼すぎになると、庄屋さんが見まわりにやってきました。
  「ありゃっ」
   見ると、畑のまんなかにクワが突きささっています。
  「こんなところに、大事な畑道具をおきっぱなしにして。・・・おや? 畑仕事は、何一つ手をつけておらんじゃないか。いったいきっちょむさんは、どこヘいったんじゃ?」
   庄屋さんがそのヘんをさがしてみると、きっちょむさんは大の字になって、木の下でグーグーと、大いびきをかいています。
   庄屋さんはカンカンにおこって、
  「こりゃあ! そのざまは何ごとじゃ!」
  と、どなりつけました。
   きっちょむさんは、ねたまんまで目をあけて、
  「ありゃ? 庄屋さんでしたか」
  「でしたかいもないもんじゃ。このいいお天気に、朝から何一つ仕事もせんで!」
  「へい、ですが」
  「ですが。なんじゃい?」
   きっちょむさんは、おちついた声でいいました。
  「きのう、庄屋さんがおっしゃりました。畑仕事は弁当がするんじゃと。それで」
  と、首をもちあげて、畑に突きさしたクワを指さすと、
  「あのとおり、弁当にクワを持たせて、畑に出してやりました」
  「なんじゃと!」
   カンカンにおこっている庄屋さんを見あげて、きっちょむさんは、
  「はて、ここから見ておりますと、弁当のやつめ、いっこうに仕事をしませんな。仕事は弁当がするもんじゃのに。ねえ、庄屋さん。弁当のやつは、なまけものですな」
  「・・・・・・」
   庄屋さんは、返す言葉がありませんでした。
おしまい