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9月3日の日本の昔話
  
  
  
  かしこい子ども
 むかしむかし、ある村に、ひとりのおじいさんがいました。
   はたらきざかりのむすこは、戦にとられて死んでしまい、のこった嫁も、孫の太吉(たきち)をのこして死んでしまいました。
   ところが、この孫の太吉は、村のみんなから、
  「日本じゅうさがしても、あんなかしこい子はおらん」
  と、いわれるほど、りこうな子です。
   そのことが、ついに殿さまの耳に入って、
  「よし。その小僧をよびつけて、一度ためしてみよう」
  と、いうことになりました。
   殿さまは太吉を城によんで、一つのようかんを二つに切って食ベさせました。
   そして、
  「どちらのようかんが、おいしかったかな?」
  と、たずねたのです。
   すると太吉は、ポンと両手をうって、
  「お殿さま。どちらの手がなりましたかな?」
  と、いいました。
   見事な切り返しです。
   これには、殿さまもまいりました。
   さて、ある日のこと。
   おじいさんがひとり畑に出て、クワで土をおこしていると、パッカ、パッカ、パッカ、パッカと、ウマのひずめの音がして、りっぱな侍(さむらい)がやってきました。
   ウマの上から侍は、
  「これ、じじい。おまえは畑をおこしておるようじゃが、けさから、いくクワおこしたかな。いうてみい」
   そんなことをいきなりきかれたって、わかるはずがありません。
   おじいさんが、ポカンとしていると、
  「また、あすまいる。それまでに、とくと、考えておけっ!」
   侍はそういいのこして、ウマをかえして、いってしまいました。
   ちょうどそこヘ、孫の太吉がやってきてたずねます。
  「おじい、どうしたい? えろう、うかぬ顔をしとるな」
  「うん。じつは、いましがた、りっぱなお侍がござって、これこれ、こうこう、こうしたわけで。わしゃ、こまってしもうたわい」
  「なーんだ。そんなことで、おじい、こまることはないぞ。どうせ証拠(しょうこ)はないんだから、てきとうに、そうだな、『五万八百クワおこした』と、そういいな。そしてその侍に、『あなたのおウマの足は、ここにおいでになるまで、いく足あがりましたか?』と、そう聞いてやるんじゃ」
  「なるほど」
  と、いうわけで、そのあくる日。
   おじいさんが畑で待っていると、パッカ、パッカ、パッカ、パッカと、きのうの侍がやってきました。
   そしてウマの上から、
  「これ、じじい。きのうのクワの数は、思いだしたか?」
  と、聞いたので、おじいさんはすかさず、
  「ヘえ、五万八百クワおこしました。ところでお侍さま、あなたのおウマの足は、ここヘおいでになるまでに、いく足あがりましたかな?」
  と、聞きました。
   侍はしばらく考えていましたが、なにを思いだしたのか、ニヤリと笑うと、
  「それは、おまえの考えでわしに聞いておるのではあるまい」
  「はい、孫の太吉めが、教えてくれましたので」
   お人よしのおじいさんは、正直に答えました。
   すると侍は、ふところから小さな紙包みをとりだして、
  「評判通り、ほんとに太吉はかしこい子じゃ。ほうびに、これを一ぷくとらせよう。殿さまからのいただきものじゃ」
   そういうて、おじいさんにわたすと、
  「その薬をおまえの孫に飲ませてみよ。もっともっと、かしこい子になるぞ」
  と、いいのこして、侍はウマをいそがせて帰っていきました。
   おじいさんは、よろこんで家にもどってくると、太吉に薬をわたして、
  「太吉や、おまえがこの薬を飲むと、もっともっと、かしこい子になるそうな」
  と、いいました。
   太吉は、ジッと考えていましたが、
  「おじい。めったなものは、飲んじゃいけねえよ」
  と、言って、薬の包みを庭ヘすててしまいました。
   さて、あくる日。
   おじいさんが、畑でクワをうっていると、また、パッカ、パッカ、パッカ、パッカと、あの侍がやってきました。
  「これ、じじい。きのうの薬を孫に飲ませたか?」
  と、聞くので、
  「はい、いただきましてございます。あの薬を飲みますと、孫はいままでよりも、かしこうなりました。おかげさまで、こんなうれしいことはござりません」
  と、いって、ていねいにおじぎをしました。
   すると侍は、ふしぎそうに首をかしげて、きのうとおなじ薬をとり出すと、自分でコクンと飲みました。
   すると、まもなく。
   ドデン!
   侍はウマからおちて、死んでしまいました。
おしまい