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9月30日の日本の昔話
あぶらあげ
むかし江戸に、おいしいとひょうばんの、あぶらあげ屋がありました。
ある日、このみせにスラリとした、身なりのいい、キツネ目のさむらいがあらわれ、主人にたのみました。
「百文(三千円ほど)ほどいただきたい」
主人が、百文ぶんのあぶらあげをおさらにのせて、さしだすと、さむらいはみせさきにこしをかけて、ペロリとたいらげ、
「うん、これはひょうばんどおりだ」
まんぞくそうに、かえっていきました。
それからいく日かたつと、このさむらいがふたたびやってきて、また、百文ぶんのあぶらあげを、ペロリとたいらげ、
「わたしは、日本じゅうのあぶらあげをたべているが、ここのあぶらあげこそ天下一品。なかまにもしらせよう」
と、ほめあげて、かえっていきました。
「おい、きいたか。あのおかたは、いなりさんのつかいのキツネにちがいないぞ。だいじにすれば、わが家は、ますますさかえる」
主人はおかみさんにいって、ホクホクしていました。
いく日かたつと、またまた、れいのさむらいがやってきて、百文ぶんのあぶらあげを、ペロリとたいらげました。
けれど、ためいきをついたりして、これまでとは、ようすがちがいます。
「なにか、しんぱいごとでもあるのですか?」
主人がたずねると、
「じつは、きゅうに京へのぼらねばならなくなったのだが、旅費(りょひ)がたらんのだ」
「お客さまは、大のお得意さま。旅費でしたら、わたしどもにおまかせください。で、いかほど、ごいりようなのです?」
「十五両(百万円ほど)もあればよい」
(高いなあ。・・・だが、わが家がはんえいするのなら、安いものだ)
主人はよろこんで、お金をわたしました。
「五日たてばもどる。それまで、これをあずけておく」
さむらいは、キツネのたからものの、『宝珠の玉(ほうしゅのたま)』でも入っていそうなつつみをさしだし、たちさっていきました。
「きいたか。五日で京へいってもどるとは、人間わざではない。きっと、いなり神社の大もとの『伏見(ふしみ)いなり』へいかれたのだ」
「そうでしょうとも。これで、ごりやくはまちがいありませんね」
主人もおかみさんも、すっかりその気になりました。
ところが、さむらいは十日たっても、百日たっても、かえってきません。
「これはおかしい。どうもへんだ」
と、あずかっていたつつみをあけたところ、ただの石ころが、ゴロンとでてきました。
おしまい