
  福娘童話集 > きょうの日本昔話 > 10月の日本昔話 > ものいうかめ
10月22日の日本の昔話
  
  
  
  ものいうかめ
 むかしむかし、あるところに兄と弟がおりました。
   兄は金持ちでしたが、弟は貧乏で、おかあさんのめんどうをみていました。
   ある日、弟が山へしばかりにいくと、カメが出てきました。
   カメは、まるで人間みたいに、こんなことをいいました。
  「おまえは親孝行な男だから、金もうけをさせてやろう。おれを町へつれていけ。おれが歌を歌って金をかせいでやるから」
   そこで弟は、カメを連れて町へ行きました。
   そして、人通りの多い町かどに立って言いました。
  「さあさあ、めずしいカメだよ。なんと、歌を歌うカメだよ」
   人々が、みるみるうちに集まってきました。
   すると、カメはきれいな声で歌を歌い出したのです。
  「ほう、こりゃあ、ふしぎなカメだ」
  「これはみごと、おもしろい」
   人々は感心して、お金をたくさん投げてくれました。
   そんなことを何度も繰り返しているうちに、弟は金持ちになって、大きな家までたてました。
   これを見た兄は、さっそく弟のカメをかりて、町へ出かけました。
   そして、にぎやかな町かどで、
  「さあさあ、よっといで、見といで、聞いといで。めずらしいカメだよ。歌を歌うカメだよ」
  と、人々を呼び集めました。
   ところが、カメはいっこうに歌を歌おうとはしません。
   見物人たちは、おこりだしました。
  「このうそつきめ!」
  「ふてえやつだ」
   兄は見物人から、ひどいめにあいました。
  「ちくしょう、おまえのせいだ!」
   怒った兄は、カメを殺してしまいました。
  「かわいそうに」
   弟は泣き泣き、死んだカメを連れて帰って、家のうらに埋めました。
   そしてその上に、一本の木を植えました。
   つぎの日、外へ出た弟は、思わず声をあげました。
  「ややっ、こりゃあ、ぶったまげた。おっかあ、はようきてみれ」
   おかあさんが飛んで出て見ると、きのう植えた木がグングンのびて、天まで届いているではありませんか。
   そして、もっとおどろいたことには、その木をカメが何匹もならんで、ゾロゾロとおりてくるのです。
   おまけに、そのカメたちは、みんな口にお金をくわえているのです。
   弟は、ますますお金持ちになりました。
  「おまえが、やさしい心を持っているおかげだよ」
  と、おかあさんも大喜びしました。
   その話を聞いた兄は、カメのお墓の木の枝をおって、うちへ持って帰って植えました。
   木はグングンのびて、天まで届きました。
  「こりゃあ、ありがたい。今にカメが金をくわえておりてくるぞ」
   兄はニヤニヤしながら、見上げていました。
   まもなく、カメが木をつたっておりてきました。
   だけど、どのカメもお金なんかくわえていません。
  「この、ろくでなしのカメどもめ、はやく金を持ってこい!」
   兄はカンカンになって怒りました。
   そして、
  「もういい。わしが自分で取りに行く!」
   兄は木をドンドンと登っていきましたが、途中で手がすべってしまい、そのまま地面に落ちて大けがをしたのです。
おしまい