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11月4日の日本の昔話
サケのおじいさん
むかしむかし、ある北国の川に、それはそれは大きなサケが住んでいました。
人びとは、そのサケを大助(たすけ)と呼んでいます。
毎年、秋がすぎて、チラチラ雪が降りだすころになると、海からたくさんのサケがのぼってきます。
大助は、そのサケたちを案内して、ずうっと川上の卵をうむ場所へ連れていくのでした。
「おお、今年もサケがきた」
「大助だけは、アミにかけるでないぞ」
漁師たちはそういって、道案内の大助が通りすぎてから、サケをとりはじめました。
ところがその川べりに、たいそうお金持ちな長者(ちょうじゃ→詳細)がすんでおりました。
長者は、おおぜいの人をやとっていて、
「どうじゃ、見渡すかぎりの山の幸(さち)、川の幸は、みな、わしの物さ」
と、いばっております。
ある日、この長者が、やといの人たちを集めると、
「サケの大助とやらを、とって食ベたら、さぞかしうまかろう。みなの衆、アミをつくれ。よいか、川幅いっぱいの大アミをつくるのじゃ」
と、いいつけました。
みんなはビックリしましたけれど、長者のいいつけですから、きかないわけにはいきません。
何日も何日もかかって、長い長い大アミをつくりました。
いよいよアミができあがった晩のことです。
長者が眠っていると、まくらもとに白いひげの仙人(せんにん)のようなおじいさんが現れました。
「これ、長者よ。あすの朝、大助がサケを連れて川をのぼる。いくらでもたくさんとるがよい。ただ、大助だけはアミにかけないでくれ。たのんだぞ」
そういい残して、おじいさんの姿は、どこへともなく消えました。
つぎの日の朝、長者は夜が明けないうちから、やといの人たちを呼び起こし、川にアミをはらせました。
やがて海のほうから、さざ波をたてて、かぞえきれないほどたくさんのサケがのぼってきました。
いちばん先頭には、特別大きい大助の姿が見えました。
みんな、まっすぐアミの中へ飛びこんできます。
それを見た長者は、大声をあげて、
「それ、かかったぞ。大助を逃がすな、アミを引けーい!」
と、さけびました。
「えいや、こらさ。えいや、こらさ」
と、おおぜいのやといの人たちが、力のかぎりにアミを引きました。
朝日をあびて、サケのうろこがキラキラとかがやきます。
それは、今までにない大漁でした。
でも、すっかりアミをあげてみるとどうでしょう。
大助の姿は、どこにもありません。
そのかわり、タベのおじいさんが、また長者の前に立っていました。
「長者よ、川の幸(さち)は、いつまでもあるものではない。大助をとってしまったら、たくさんのサケたちの道案内がなくなって、これっきり川をのぼってこれなくなるのじゃ。どうか、はなしてやってくれ」
おじいさんは、ひどく悲しそうにたのみました。
「いやだ、放してなんかやるものか! サケはみんな、わしのものじゃ!」
長者は首を振って、おじいさんをどなりつけました。
するとおじいさんの姿は、スーッと消えてしまい、気がつくと、長者の足もとに特別大きなサケが一匹、横たわっておりました。
そのサケこそが、太助です。
「やったぞ! ついに太助を手入れた」
長者は、手をたたいて喜びましたが、このことがあってから、長者の家はかたむいて、長者は貧乏になってしまいました。
そしてつぎの年から、もう一匹のサケも川をのぼってこなくなったそうです。
おしまい