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12月16日の日本の昔話
  
  
  
  キツネとタニシ
 むかしむかし、足のはやいのがじまんのキツネがいました。
   あるとき、このキツネがタニシ(→詳細)にいいました。
  「ちょっと都までいってきたんじゃ」
   キツネは足のおそいタニシを、いつもばかにしています。
  「都までは遠いから、足のおそいタニシなんかには、ぜったいにいけんところじゃな」
   タニシは、キツネがじまんばかりしているので、ちょっとからかってやろうと思いました。
  「キツネさん、そんなに足がはやいなら、わたしと都まで競走(きょうそう)しませんか?」
  「ギャハハハハハハ! タニシがどうやって、あんな遠くまでいけるんじゃい」
  「キツネさんにいけるなら、わたしにだっていけます。キツネさんは、わたしよりはやく歩けるのですか?」
  「なに! わしのほうがはやいにきまっとる!」
   はじめはバカにしていたキツネも、だんだんおこってきました。
  「よーし、そんなにいうのなら、わしとどっちが早く都へつくか、競走じゃ!」
   こうして、キツネとタニシの競走がはじまりました。
  「よーい、ドン!」
   キツネはドンドン歩きはじめました。
   ふりかえってみると、タニシはもう見えません。
  「まったく、わしが勝つにきまっているのに。ほら、もう見えなくなっちまった。バカバカしい」
   キツネはバカらしくなって、ちょいとひと休みです。
   すると、タニシの声がしました。
  「もうつかれたのかい、キツネさん。それではお先にいきますよ」
   キツネはビックリ。
   遠くヘおいてきたと思ったタニシが、すぐそばにいるではありませんか。
  「おかしい。おいつかれるはずはないんじゃが・・・」
   キツネはふしぎに思いながらも、また歩きはじめました。
   そのうちに、山に夕日がしずみはじめました。
   キツネはまたまた、バカバカしくなってきました。
  「タニシなんかと早歩き競走なんかしたって、なんにもならんな。わしが勝つにきまってるんだから。ほんとのこというと、都なんかいったこともないし。・・・だいぶ遠いんじゃろな」
   キツネは立ち止まって、おしっこをしようとしました。
   すると、目の前にタニシがいます。
  「キツネさん、早くしないとおくれますよ。わたしについておいで」
  「そんなバカな!」
   キツネは信じられません。
   でも、タニシはそこにいます。
   キツネは気持ちわるくなって、むちゅうで走りだしました。
   ほんとうは、タニシはキツネのしっぽにつかまって、やってきたのでした。
   そうとは知らないキツネは、負けたくないので、ひっしで走りつづけました。
   そのうち、つかれてフラフラです。
   するとまた、タニシの声が。
  「キツネさん、そんなことでは、おいこしてしまいますよ」
   おどろいたキツネは、また、むちゅうで走りつづけました。
   そして、都への道しるべまでくると、とうとうへたりこんで、
  「やっとついた。タニシに勝ったぞ。ふうっ、つかれた! そうとも、キツネがタニシに負けるはずはないんじゃ」
   ホッとしたキツネの耳に、また、タニシの声が。
  「キツネさん!」
   キツネはキョロキョロとあたりを見まわしました。
  「ここですよ、キツネさん」
   タニシが、都への道しるべの上にいます。
  「おそいな。いまついたところかい? わたしはとっくについて、都見物をすませた後ですよ」
  「そ、そんなばかな・・・」
   それからというもの、キツネは足がはやいことをじまんしなくなったそうです。
おしまい