
  福娘童話集 > きょうの日本昔話 > 12月の日本昔話 > 青テングと赤テング
12月17日の日本の昔話
  
  
  
  青テングと赤テング
 むかしむかし、ある山のてっぺんに、とてもなかのよい青いテング(→詳細)と赤いテングがすんでいました。
   青テングと赤テングは、いつも山のてっペんから、人間たちのいる下界をながめています。
   ある日、赤テングがいいました。
  「なあ、青テングよ、おれたちがこの山にすんで、何年になるかな?」
  「ん、そうだな。五百年になるかな」
  「五百年か。こうして下界のようすを見ていると、おもしろいようにかわっていくが、おれたちは、ちっともかわらないな」
   赤テングがいうと、青テングはのんびりこたえます。
  「ふむ、下界のれんちゅうは、年がら年じゅう、いそがしくけんかばかりしているからなあ」
  「ああ、そうか。けんかをしてかわっていくのか」
  「そうだな。ああやって、せっかくきれいな町をつくったかと思うと、けんかをはじめて、ぜんぶもやしてしまう。そしてまた、せっせと新しい町をつくっては、またけんかをする。まったく、よくいやにならずにけんかをするもんだよ」
   それを聞いていた赤テングは、手をたたいていいました。
  「そうか! わかった! おれたちもけんかをしなくちゃだめなんだ」
  「なんだい、とつぜん」
  「おれとおまえは、五百年のあいだ、一度もけんかをしたことがない」
  「なかよしなんだから、いいじゃないか」
   青テングがそういっても、赤テングはききません。
  「いいや、けんかをしないというのは、進歩(しんぽ)がないんだ」
  「そうかなあ・・・」
  「ともかくおれは、きょうからおまえとけんかすることにきめた。いいか、しばらくはいっしょに遊ばないからな」
  「まあ、なんだかよくわからないけど、そうしてみるか」
  と、いうわけで、青テングと赤テングは、ひょんなことから、けんかをしてみることになりました。
   いままでいつも二人でなかよくやってきたのですが、その日から、山をはさんでべつべつにすごして、できるだけ顔を合わせないようにしました。
   そんなある日。
  「ああ、一人でいるとたいくつだなあ。なにかおもしろいことないかな」
   青テングは、一人で下界をながめていました。
   すると、
  「ん? なんだあれは? どうしてお城があんなにピカピカと光っているんだろう。そうだ、あそこまでちょっと鼻をのばしてみよう。鼻、のびろー、鼻、のびろー」
   そういいながら鼻をこすると、青テングの鼻は、スルスルスルと、お城のほうへのびていきました。
   さて、そのころお城では、お姫さまの侍女たちが、お姫さまの着物を虫ぼしをしているまっさいちゅうでした。
  「まあ! この着物のすばらしいこと! キラキラとお日さまにかがやいて、まるでほうせきのようだわ」
  「でも、おめしものがあんまりたくさんで、ほすところがありませんわ。どういたしましょう」
   そこへ、青テングの鼻が、スルスルとのびてきました。
  「あら、ちょうどいい青竹がありました。でも、ずいぶん長いさおだこと」
   侍女たちはつぎからつぎへと、青テングの鼻に着物をほしました。
   ビックリしたのは青テングです。
  「な、なんだ? やけに鼻の先が重くなってきたな。鼻をもとにもどそう。鼻よ、ちぢまれー、鼻よ、ちぢまれー」
   すると青テングの鼻は、色とりどりの着物をひっかけたまま、ちぢまっていきました。
  「あれえ! おめしものが。どろぼう!」
   侍女たちは大あわてですが、どうすることもできません。
   鼻をちぢめた青テングは、自分の鼻にかかっている美しい着物を見て、またビックリ。
  「なんだ、こりゃ?」
   こうして青テングは、お城に鼻をのばしたおかげで、お姫さまのきれいな着物を手に入れることができました。
   青テングはよろこんで、着物をかわるがわる着ては、遊んでおりました。
   そこへやってきたのは、赤テングです。
  「なにをおどっているんだ」
   青テングは、色とりどりの着物を見せながらいいました。
  「お城に鼻をのばしたらな、こんなにきれいな着物がついてきたんだ。まだまだたくさんある、おまえのぶんも、ちゃんとむこうにとってあるぞ」
   ところが、赤テングはプイッと横をむき、
  「ふん、ばかばかしい。そんなチャラチャラしたもんなんか着れるか!」
   そういって、さっさと山のむこうがわに帰ってしまいました。
   でも赤テングは、ほんとうは青テングがうらやましくてたまりません。
  「いいなあ、城に鼻をのばすのか。おれもやってみよう。のびろー、鼻、のびろー、鼻」
   赤テングの鼻は、スルスルとお城ヘのびていきます。
   そのころお城では、お殿さまが、家来たちに武芸(ぶげい)のけいこをさせているところでした。
  「平和なときこそ、武芸にはげむときじゃ。しっかりやれい!」
  「たあっ! とうっ!」
  「きえっ!」
   家来たちが、刀やヤリをふりまわしているところへ、赤テングの鼻がのびてきました。
  「おや?」
  「な、なんだ、この赤いものは?」
  「と、とにかく切れ!」
   お殿さまの命令に、家来たちはいっせいに、その鼻に切りかかりました。
   さあ、おどろいたのは赤テングです。
  「ギャア! 痛い、痛い!」
   かわいそうに、赤テングはお城に鼻をのばしたおかげで、きれいな着物を手に入れるどころか、とんでもないめにあってしまいました。
   鼻はいたいわ、着物は手に入らないわ、なにがおきたのかさっぱりわかりません。
   赤テングがションボリ岩にすわっていると、青テングがやってきました。
  「おーい、赤テング、どうした。いやにしずかにしてるな」
   青テングは、赤テングの鼻のキズを見てビックリ!
  「ど、どうしたんだ、その鼻は?」
  「ほっといてくれ」
  「そうはいかないよ、どれ、見せてごらん。ひどいきずじゃないか。かわいそうに」
   青テングのやさしいことばに、赤テングは泣き出してしまいました。
  「だいじょうぶだ、だいじょうぶだ。ケガによくきく、カッパのぬり薬をぬってやるからな。それから、きれいな着物を半分やるから、がまんしな」
と、いうわけで、赤テングもやせガマンをやめて、青テングとまた、なかよくくらすことになりました。
おしまい