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12月21日の日本の昔話

かさ売りお花

かさ売りお花

 むかしむかし、人気のない道に、ようきな歌声がひびきました。
♪雨ふれ 雨ふれ。
♪雨ふりゃ 魚がよろこぶぞ。
♪雨ふれ 雨ふれ。
♪雨ふりゃ 百姓(ひゃくしょう→詳細)がよろこぶぞ。
♪雨ふれ 雨ふれ。
♪雨ふりゃ かさ屋がもうかるぞ。
 月夜の道を歌いながら歩いていくのは、かさ売り娘のお花でした。
 お花は、お父さんとお母さんのつくったかさを売って歩く、働きものの娘です。
 雨の日も風の日も、毎日売り歩いていましたが、雨のふらない日がつづくと、かさは全然売れないので、遠くの町まで売りに行きます。
 それで、家へ帰るのがおそくなったのでした。
♪雨ふれ、雨ふれ。
♪雨ふりゃ、かさ屋がもうかるぞ。
 お花にとって、かさを売り歩くことは、つらいことではありませんが、まだ小さな娘なので、まっ暗な夜道をひとりで歩くのが、とてもこわかったのです。
 だから、ようきに歌を歌うのです。
 ある日のこと、いつものように夜道を一人で歩いていると、うしろのほうでなにか物音がしました。
 お花はビックリして、うしろをふりかえりましたが、だれもいません。
 でも、お花が歩きだすと、また物音がします。
 きみがわるくなったお花は、走りだしました。
 すると、だれかが追いかけてきて、お花の手をギュッとつかんだのです。
「キャーッ、たすけてー!」
 おどろいたお花がふりかえると、そこにいたのは、おばあさんでした。
「さっき歌っていた歌、聞かせろや。雨ふれ、雨ふれって歌。おらも、雨が大すきじゃ」
 おばあさんが話しかけてきました。
 一人で心細かったお花は、すっかりうれしくなって、
♪雨ふれ、雨ふれ。
♪雨ふりゃ、かさ屋がもうかるぞ。
♪雨ふれ、雨ふれ。
♪雨ふりゃ、魚がよろこぶぞ。
 お花とおばあさんは、声をそろえて歌います。
♪雨ふりゃ、黒川よろこぶぞ。
♪雨ふれ、雨ふれ。
♪雨ふりゃ、女川もよろこぶぞ。
 お花は、こわかったこともわすれて、おばあさんとならんで歩いていました。
「おばあさん、どこまでいっしょにいけるんや?」
 お花がたずねると、おばあさんはニッコリして、
「ずっといっしょにいけるぞ。わしゃ、となり村の黒川へあそびにいくんじゃが、おまえも、いっしょにいこう。黒川も雨が大すきじゃで、おまえの歌、きっと気に入ると思うんじゃ」
「おら、おとう、おかあが待っとるで、家に帰らなきゃ」
「そりゃ、なんねえ! 黒川んとこいかなきゃだめじゃ! 家に帰っちゃなんねえぞ!」
 そういうおばあさんの手と足には、なんと、さかなのようなうろこがついているではありませんか。
 ビックリしたお花は、
「おら、家へ帰る。おら、帰るっ!」
と、むちゅうでかけだしました。
「ならん、黒川へいくんじゃ!」
 にげるお花を、おばあさんが追いかけます。
 ひっしににげるお花が、ふとふりかえると、すぐうしろにおばあさんの手がせまっていて、お花をヒョイとつまみあげました。
「わっ! たすけてっ! 家に帰りたいよ!」
「だめじゃ。おまえは黒川の主へのみやげじゃ。わしは、女川の主じゃ。わしのいうことをきかんと、食ってしまうぞ。わかったか!」
「は、は、はい。いうことをきくで、たすけてくれろ」
 おばあさんはニンマリして、ブルブルふるえているお花を地面におろしました。
 そのとき、お花は遠くの塩たき小屋のあかりに気がつきました。
 浜の塩たき小屋では、夜通し塩をたいているので、あそこまでいけば、助かるかもしれません。
 お花は、おばあさんのすきをみて、いちもくさんににげだしました。
「こら、待たんか!」
 おこったおばあさんは、ついに正体をあらわしました。
 そのすがたは、大ガッパです。
 大ガッパは、スーッと地面に消えたかと思うと、いつのまにか、お花の先まわりをして、塩たき小屋の前にあらわれました。
「たすけてっ! おらを食わねえでくれっ! おらの命よりだいじなこのかさをあげますで、食わねえでくれろ!」
「うん? かさとはなんじゃ? そんなにだいじなものなんか?」
 お花がさしだしたかさを、大ガッパはふしぎそうに見ています。
「おとうとおかあがこしらえた、だいじなかさじゃ。雨がふると、こうしてパッとひろげる」
「なるほど、『雨ふりゃかさ屋がもうかる』とは、このことか。こりゃええ。おもしろい」
 大ガッパは、かさを手にして、きげんよく歌いはじめました。
♪雨ふれ 雨ふれ。
♪雨ふりゃ 魚がよろこぶぞ。
♪雨ふれ 雨ふれ。
♪雨ふりゃ 百姓がよろこぶぞ。
♪雨ふれ 雨ふれ。
♪雨ふりゃ かさ屋がもうかるぞ。
 塩たき小屋の入り口で、塩たきのおじいさんが、そっとお花に手まねきしました。
 お花は大ガッパがかさに気をとられているすきに、小屋に逃げ込みました。
 おじいさんは、小屋の戸をしっかりとしめて、お花を塩かごの中にかくしました。
 そしてそのまわりに、まよけの塩をたっぷりとまきます。
 大ガッパが、ハッと気がついたときには、お花のすがたはもうありません。
「こらっ、にがしはしないぞ」
 すぐ追いかけた大ガッパですが、小屋の前の塩を見て足をとめました。
「し、塩じゃあ。わしに、小屋へ入るなということか。ふん、いくら塩をまいたってだめじゃ。なんともねえぞ」
 大ガッパは、頭をかべにつっこんで、小屋の中をグルリと見まわしました。
 塩をまいた土間(どま)には、おじいさんがすわっています。
「娘はどこじゃ!」
 小屋の中には、たくさんの塩かごがつみあげています。
「あれが、そうだな」
 かべのすきまから、頭だけスルリと入っていく大ガッパ。
 おじいさんの目の前をよこぎり、お花のいる塩かごにせまります。
 かごの中では、お花がブルブルとふるえていました。
 大ガッパが大きな口をパックリ開けて、いまにもかごごと飲みこもうとしたとき。
「それっ!」
 おじいさんが、たくさんのかごをしばっていたあみを引っぱりました。
 すると、つみあげておいたかごがいっせいにくずれて、
「ギャァーー! 塩がかかったっ!」
 大ガッパは苦しそうにからだをくねらせ、悲鳴をあげながら、にげてしまいました。
 それいらい、女川の主を追いはらった、塩たきのおじいさんとお花はひょうばんとなり、お花のかさは飛ぶように売れて、お花の家は大金持ちになりました。

おしまい

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