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12月25日の日本の昔話
  
  
  
  ネコと茶がまのふた
 むかしむかし、あるところに、たいそううでのいい猟師がいました。
   ある日、猟師がえものをとって、山をおりてくると、子ネコが一ぴき、家のところでないていました。
  「よしよし、わしの家においてやろう」
   猟師は、子ネコをかうことにしました。
   それからいくねんかたったある日、猟師の家に村のなぬしさま(→身分は百姓(ひゃくしょう→詳細)だが、役人の仕事をしている人)がやってきました。
  「山におそろしいばけものがでて、村の人たちがさいなんにあっている。ひとつ、あんたのてっぽうで、ばけものをたいじしてもらいたい」
  「わかりました」
   猟師はさっそく、ばけものたいじにつかうてっぽうの玉を、いろりばたでつくりはじめました。
   すると、それまでいねむりをしていたネコが、うす目をあけて、玉のかずをかぞえるようすをみせました。
  (はて、おかしなことをするものだ。ネコはとしをとると、まものになるというから、ようじんしたほうがいいな)
   猟師は、十二コの玉をつくったほかに、金のかくし玉をひとつ、ネコにきづかれないように、こっそりと、ふところにしのばせました。
   どんな猟師でも、いよいよというときのために、かくし玉をよういするのです。
   さて、つぎの日。
   猟師は、てっぽうを手に、山のばけものたいじにでかけました。
   あちこちさがしますが、ばけものはあらわれません。
   やがて日がくれて、あたりがくらくなってきました。
  「こんやは、山のこやにとまるとしよう」
   猟師が山のこやでやすんでいると、まよなかになって、
   ミシッ、ミシッ、ミシッ。
   足音をしのばせて、ちかづいてくるものがありました。
   猟師はハッと目をさまして、てっぽうをかまえます。
   こやのすきまからのぞくと、くらやみのなかにピカピカと、ふたつの目玉がひかっています。
   猟師は、ばけものの目と目のあいだにねらいをつけて、ひきがねをひきました。
   ズダーン!
   ところが玉は、
   カチーン!
  と、はじかれてしまい、なおも目玉がひかっています。
   二発めをうつと、また、
   カチーン!
   うってもうっても、玉がはじかれてしまいます。
   とうとう、十二コの玉をぜんぶ、うちつくしてしまいました。
   すると、やみのなかの目玉が、
  「玉はそれだけだな。ガハハハハハハッ」
  と、猟師にせまってきました。
   猟師は、ばけものがゆだんしてちかづいたところを、金のかくし玉で、
   ズダーン!
  と、うちました。
   こんどは、たしかな手ごたえがあり、ばけものは、
  「ギャオォーー!!」
  と、さけんで、山おくへにげていきました。
   夜があけると、猟師はゆうべ、ばけものをうったあたりをしらべました。
   そこには、みおぼえのある茶がまのふたがおちていて、十二コの玉がちらばっています。
  「この茶がまのふたは、わしの家のものににているが、どうしたことだろう? おや、血が」
   茶がまのふたがおちていたところからは、山おくのほうへと、血がてんてんとついています。
   猟師があとをたどっていくと、その先に、大きな山ネコが死んでいました。
   その山ネコの毛のもようが、じぶんのネコににていたので、猟師がいそいで家にかえってみると、やっぱりネコがいません。
   茶がまのふたもなくなっていました。
  「そうか。わしのネコがばけものだったのか。てっぽうの玉よけに、茶がまのふたをもちだして、わしをころそうとしたのだな」
   猟師はふたたび山へもどると、山ネコのなきがらを持ち帰り、とむらってやりました。
おしまい