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12月27日の日本の昔話
  
  
  
  三郎の初夢
 むかしむかし、あるところに、太郎、次郎、三郎という三人兄弟がいました。
   ある年の正月二日の夜、
  「どんな初夢を見たか」
  と、おやじさまが三人にききました。
   ところが、三郎だけはどうしても話しません。
   そしてとうとう、おこったおやじさまに、家を追い出されてしまったのです。
   お金もなく、食べ物にこまった三郎は、よその畑の物をぬすんで役人につかまり、ろう屋に入れられてしまいました。
   ところが、その国の殿さまには、心やさしいひとり娘の姫さまがいて、毎日、三郎のところにごはんを運んでくれました。
   さて、この姫さまはたいそう美しかったので、隣の国の鬼の王が、
  「嫁になれ!」
  と、いってきました。
   鬼の嫁なんて、とんでもありません。
   殿さまはことわりましたが、腹を立てた鬼の王は、殿さまのところへ無理難題(むりなんだい→できないこと)をいってきて、それができないなら、姫をうばっていくというのです。
   まず、最初の難題。
   はしからはしまで同じ太さの一本の木の棒(ぼう)を送ってきて、この棒のどちらのはしが根っこだったか、見分けろというのです。
   泣き顔でごはんを運んできた姫さまから、そのことを聞いた三郎は言いました。
  「そんなこと、わけないさ。木という物は、先よりも根っこの方が重たいんだ。だからその棒のまん中を糸でしばってつるすと、重たい根っこの方が下にさがるのさ」
   殿さまは三郎のいったとおりにして、重たい方に印をつけて、鬼の国へ返しました。
   するとつぎは、白いウマを三頭よこして、「歳の順を見分けろ」というのです。
   ウマは同じ毛なみ、同じ大きさ、どれが年寄りでどれが若いのか、さっぱりわかりません。
   すると三郎が言いました。
  「今年の麦を食ったのがいちばん若く、前の年の麦を食ったのがそのつぎ、前の前の年の麦を食ったのが、いちばん年寄りというわけさ。ウマでも人でも、うまれて最初に食べたものの味が、一番好きだからね」
   今度も三郎は、みごとに難題をときました。
   するとつぎは、
   ズドン!
   鬼の国から、鉄の矢が飛んできました。
   お城の庭に突きささった矢を見ると、手紙が結びつけてあります。
  《これをぬいて、かついでこい。さもなければ、姫をよこせ》
   力自慢の家来たちが、よってたかってぬこうとしましたが、矢はビクともしません。
   すると、三郎がいいました。
  「引っぱってぬこうとするから、ぬけんのだ。まわりの土をほればいい」
   三郎のいうとおりに、矢のまわりの土をほってみると、
   スポン!
   矢は、らくらくとぬけました。
   感心した殿さまは、三郎の罪をゆるし、鬼の国へ三郎を使いにやりました。
   出かけるとき、なにを思ったのか、三郎は自分とそっくりの若者四人を連れて、その矢を鬼の国へかついでいきました。
   鬼の王は、きっと五人の中に、今まで出した難題をつぎつぎにといた、知恵者の三郎がいるにちがいないと思い、こういいました。
  「まあ、今夜は遅いから、とまっていけ」
   そして夜中になると、鬼の王は五人の寝ているところへやってきました。
   ところが五人ともそっくりで、だれが三郎かわかりません。
   そこで、
  「鬼の王の酒はなんの酒?」
  と、きくと、寝たふりをしていた三郎が、
  「人の生き血をしぼる酒」
  と、答えました。
   鬼の王は、この若者が知恵者の三郎だと思ったので、三郎の髪の毛をハサミでちょん切って、目印にしました。
   ところが三郎は、鬼の王が出ていくと、さっそくほかの四人の髪の毛を同じように切って、自分とそっくりにしておいたのです。
   つぎの朝、五人の髪がそっくりなので、だれが三郎かわかりません。
   鬼の王はカンカンにおこって、大きなカマに湯をグラグラとわかすと、家来たちに五人を煮殺せといいつけました。
   ところが、三郎がいきなりカマをひっくり返したから、たまりません。
   そばにいた鬼の王は、頭から煮えたぎった湯をあびて、死んでしまったのです。
   しばらくして、三郎が四人の若者と無事に帰ってきたので、殿さまは大喜びです。
   ほうびをたくさんとらせると、三郎を姫のお婿(むこ)さんにむかえました。
   出世(しゅっせ)した三郎は、おやじさまとおっかさまを城に呼びよせ、
  「これが、おらの初夢だったんだよ」
  と、これまでのことをはなして聞かせました。
   めでたい初夢は、人に話してはいけないといいます。
   三郎はその通りにして、しあわせをつかんだのです。
おしまい