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        4年生の日本民話(にほんみんわ) 
          
          
         
なますの好(す)きな侍(さむらい) 
石川県の民話(みんわ) 
       むかしむかし、能登の国(のとのくに→石川県)のある岬(みさき)に、大島藤五郎(おおしまとうごろう)という浪人(ろうにん)が住んでいました。 
   藤五郎(とうごろう)は魚のなます(魚や貝などをこまかく切って、すにひたした食べもの)が大好(だいす)きで、これがないと一日もがまんができません。 
  「よくもあきずに、毎日毎日食べられるものだ」 
  と、人がいっても、 
  「世の中に、山海の珍味(ちんみ)は多くとも、なますにまさるものはない。いくら食べようと、あきることがない」 
  と、いうのです。 
   さて、ある日の午後、藤五郎(とうごろう)は仲間(なかま)をつれて浜辺(はまべ)に出かけました。 
   とてもおだやかな日で、朝早く沖(おき)へ出た漁師(りょうし)たちが、たくさんの魚を船にのせて、つぎつぎと浜(はま)へもどってきます。 
   それを見ると、藤五郎(とうごろう)はもうがまんができず、さっそく魚を何匹(なんびき)も買いとり、 
  「うまそうな魚だ。なますをつくって、みんなにもごちそうしよう」 
  と、近くの漁師(りょうし)の家で、料理(りょうり)の道具を借(か)りてきました。 
   浜辺(はまべ)にむしろをしいて料理(りょうり)を始めましたが、大好物(だいこうぶつ)というだけあって、なますづくりの腕(うで)はだれよりも上手です。 
   大きなおけの中は、たちまち、なますの山になりました。  
  「さあ、どんどん食ってくれ」 
   そういって、藤五郎(とうごろう)もなますを口にほおばりました。 
  「うむ?」 
   とたんに、魚の骨(ほね)がのどにひっかかったような気がしたので、あわててはきだしてみると、マメつぶぐらいの赤い玉のような骨(ほね)が出てきたのです。 
  「拙者(せっしゃ)としたことが、骨(ほね)を残(のこ)すとは、なさけない」 
  と、いいながら、その骨(ほね)を茶わんに入れて、皿でふたをしました。 
   あらためてなますを食べてみましたが、もう、骨(ほね)は残(のこ)っておらず、いつもと変(か)わらないおいしさです。 
  「なるほど、おぬしのいうように、なますとはうまいものだ」 
   仲間(なかま)たちも舌(した)つつみを打って、なんどもおかわりをしました。 
  「いやあ、食った、食った」 
   仲間(なかま)たちが満足(まんぞく)しておなかをさすっていると、とつぜん、骨(ほね)を入れておいた茶わんが転がり、赤い玉のような骨(ほね)が飛び出(とびだ)してきました。 
   みんながその骨(ほね)を見ていると、みるみるうちに一尺(いっしゃく→ 30センチ)ぐらいにのびて、やがて人の形になって動きはじめたのです。 
   あまりの不思議(ふしぎ)さに、藤五郎(とうごろう)も仲間(なかま)たちも、目を丸くしたまま声が出ません。 
   人の形になった骨(ほね)は、グルグルと動きまわるうちに、六尺(ろくしゃく → 約180センチ)ばかりの大男になって、藤五郎(とうごろう)めがけておそいかかってきたのです。 
   藤五郎(とうごろう)はあわててうしろへとびのき、刀を抜(ぬ)きました。 
   浪人(ろうにん)とはいえ、藤五郎(とうごろう)はすご腕(うで)の侍(さむらい)です。 
   相手のおなかめがけて刀をつき出すと、大男はクルリと身をかわして、今度はこぶしをにぎりしめて、藤五郎(とうごろう)の頭をなぐりつけてきます。 
   こんな大きなこぶしになぐられたら、ひとたまりもありません。  
   藤五郎(とうごろう)も負けじと身をかわして、相手のすきを見て背中(せなか)に切りつけました。 
   そのとたん、ドッと血が吹(ふ)きだして、砂浜(すなはま)を赤くそめました。 
   それでも、大男はこぶしをふりあげて、ものすごい形相(ぎょうそう)でおそいかかってきます。  
   仲間(なかま)たちもすけだちしようと刀を抜(ぬ)いたのですが、目の前が霧(きり)のようにかすんでよく見えず、大男と藤五郎(とうごろう)のはげしい息づかいが聞こえるばかりです。 
   さすがの藤五郎(とうごろう)も疲(つか)れてきて、こぶしでなぐられそうになったとき、運よくその腕(うで)を切りおとしました。 
  「ギャーーー!」 
   さすがの大男もこれにはたまらず、ものすごい悲鳴をあげて倒(たお)れました。 
  「やったぞ!」 
   藤五郎(とうごろう)の声が、霧(きり)の中から聞こえてきました。 
   仲間(なかま)たちが息をのんで、声のする方を見つめていると、やがて霧(きり)が晴れて、返り血に染(そ)まった藤五郎(とうごろう)が片手(かたて)になにかをさげて立っていました。 
   大男はどこへ消えたのか、姿(すがた)はありません。 
  「見ろ、大男の腕(うで)を切りおとしたぞ!」 
   仲間(なかま)たちがかけよると、それは大男の腕(うで)ではなく、大きな魚のひれでした。 
   それでも藤五郎(とうごろう)は、魚のひれをふりまわし、 
  「やった、やった!」 
  と、さけびながらかけまわり、バタンと気を失(うしな)って倒(たお)れました。 
   仲間(なかま)たちは藤五郎(とうごろう)を家に運び、医者をよんできましたが、いっこうに目を覚(さ)ましません。 
   それでも七日ほどして、ようやく目を覚(さ)ました藤五郎(とうごろう)に、あの時のようすをたずねてみましたが、藤五郎(とうごろう)はまるでおぼえていないというのです。 
   あの大男は、魚を食べ過(たべす)ぎる藤五郎(とうごろう)に、仲間(なかま)の仕返しをしにきた、魚の妖怪(ようかい)だという事です。 
      おしまい         
         
        
       
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