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        6年生の日本民話 
          
          
         
なわ 
東京都の民話 
      
       むかしむかし、江戸((えど→東京都))に、池城新左衛門(いけしろしんざえもん)という侍(さむらい)がすんでいました。 
   ある晩(ばん)、友だちをたずねていってのかえり道、新左衛門(しんざえもん)が、ちょうど墓場(はかば)にさしかかったとき、 
  「あっ」 
  と、思わず声をあげました。 
   黒い物が、道の上にころがっているのです。  
   よく見ると、どうやら人間のようです。  
  「何者だ?」 
   声かけて近よって見ると、それは手も足もなわでしばられた女の人でした。  
  「このようなところで、なにをいたしておる?」 
   女はかすれた声で、苦しそうにこたえました。  
  「わたくしは、この世の者ではござりませぬ」 
  「なに、すると死人か?」 
  「はい、夫を殺した罪(つみ)で、手足をしばられたまま土の中にうめられた者でございます。このようにしばられたままでは、地獄(じごく)へもまいれませぬ。どうぞ、わたくしのこのなわをほどいてくださりませ」 
  「・・・・・・」 
   思いもよらないたのまれごとに、新左衛門がためらっていると、女はなみだ声で、  
  「わたくしが毎晩(まいばん)ここに現れて、いくらお願いもうしても、どなたさまも逃(に)げてしまわれます。それでいまだに、なわのままで苦しんでおります。お侍(さむらい)さま、どうぞ、このなわをほどいてくださりませ」 
   話しを聞くうちに、新左衛門はこの女の人があわれに思えてきました。  
  「刑(けい)をすましたからには、そなたに罪はないはずじゃ。そなたの望みをかなえてやろう」 
   新左衛門が女の人のなわをほどいてやると、女の人は、  
  「ありがとうございます。ご恩はけっして忘(わす)れませぬ」 
  と、言って、かき消すように消えてしまいました。 
   それから、数年後のこと。  
   新左衛門はお家騒動(おいえそうどう→けんりょくあらそい)にまきこまれて、責任を取って手足をなわでしばられたまま、うち首になってしまったのです。 
   するとそこへ、どこからともなく女のすがたが現れて、首のない新左衛門の死体のなわをほどくと、そのままスーッと消えてしまったという事です。  
      おしまい         
         
        
       
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