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6月16日の世界の昔話

くさったリンゴ

くさったリンゴ
アンデルセン童話 → 詳細

 むかしむかし、あるところに、それはそれは仲の良いお百姓(ひゃくしょう)夫婦(ふうふ)がいました。
 二人の家は、屋根にこけや草がはえていて、まどはいつもあけっぱなしです。
 庭には番犬が一匹いて、池にはアヒル(→詳細)が泳いでいます。
 きせつの花が門(もん)をかざり、リンゴの木もうわっていました。
 ある日のこと、お母さんがお父さんに言いました。
「ねえ、お父さん、今日は町で市(いち)がたつんだって。うちのウマもなにかととりかえてきてくれないかい。あのウマは草を食べて小屋にいるだけだからね」
「それはいいけど、何ととりかえる?」
 お父さんが聞くと、お母さんはネクタイを出して来て、それをお父さんの首にむすびながら、ニコニコ顔で言いました。
「きまってるじゃないか。それはお父さんにまかせるって。だって、うちのお父さんのすることに、いつもまちがいはないんだから」
「そうかね、そんならまかせられよう」
と、お父さんはウマに乗って、パッカパッカ出かけて行きました。
「おや?」
 むこうからメスウシを引いてくる人がいます。
「ありゃ、見事なメスウシだ。きっといい牛乳がとれるぞ」
 お父さんはそう思うと、その人にウマとメスウシをとりかえっこしてほしいとたのみました。
「ああいいよ」
 その人はお父さんにメスウシを渡し、ウマに乗ってパッカパッカ行ってしまいました。
 お父さんはメスウシを引いて帰ろうかなとおもいましたが、せっかくだから、市を見に行くことにしました。
 すると、のんびりとヒツジを連れた男に出会いました。
「こりゃ毛なみのいいヒツジだ」
 お父さんは、メスウシとヒツジをとりかえようと声をかけました。
 ヒツジの持ち主は、大喜びです。
 なにしろ、ウシはヒツジの何倍も高いのですから。
 お父さんがヒツジをもらってのんびり行くと、畑の方から大きなガチョウ(→詳細)をだいた男が来ました。
「あんなガチョウがうちの池に泳いでいたら、ちょっと鼻がたかいなあ」
 そう思うと、お父さんはさっそく、ヒツジとガチョウのとりかえっこをしようと言いました。
 ガチョウをだいた男は、大喜びです。
 なにしろヒツジは、ガチョウの何倍も高いのですから。
 お父さんがガチョウを抱いて町の近くまで行くと、メンドリをひもでゆわえている人に会いました。
「メンドリはエサはいらねえし、タマゴもうむ。お母さんもきっと助かるぞ」
 お父さんは、ガチョウとメンドリをとりかえないかと、もちかけました。
 メンドリの持ち主は、大喜びです。
 なにしろガチョウは、メンドリの何倍も高いのですから。
「やれやれ、大仕事だったわい」
 お父さんはメンドリを連れて、一休みすることにしました。
 お父さんが、お酒やパンを食べさせてくれる店にはいろうとすると、大きな袋を持った男にぶつかりました。
「いや、すまん。ところでその袋にゃ、何がはいっているのかね? 甘いにおいがするけど」
「ああ、これは痛んだリンゴがどっさりさ。ブタにやろうと思ってね」
 それを聞くと、お父さんはいつだったか、お母さんがリンゴの木を見ながら、こんなことを言ったのを思い出しました。
「ああ、いっぱいリンゴがとれて、食べきれなくてさ、痛んでしまうくらい、うちにおいとけたら。一度でいいから、そんなぜいたくな思いをしてみたいねえ」
 お父さんは男に、メンドリと痛んだリンゴをぜひとりかえてほしいとたのみました。
「まあ、こっちはそれでもかまわないが・・・」
 男は首をかしげながら、リンゴの袋を渡しました。
 なにしろメンドリは、リンゴの何倍も高いのですから。
 お父さんはリンゴの袋を持って店にはいり、お酒を飲みパンを食べました。
 ところがうっかりしていて、リンゴの袋を暖炉(だんろ)のそばに置いたので、店中に焼けたリンゴのにおいが広がりました。
 そのにおいで、そばにいた大金持ちの男が声をかけてきました。
「気の毒に。リンゴをそんしましたね」
「いやあ、いいんだ、いいんだ」
 お父さんは笑って、大金持ちに、ウマが痛んだリンゴに変わった、とりかえっこの話を聞かせました。
 話を聞くと、大金持ちの男は目を丸くしました。
「それは、奥さんに怒られますよ」
 お父さんは、首を大きく横にふりました。
「いやあ、うちのかみさんはおれにキスするよ」
「まさか! ほんとにキスしたら、ぼくはあなたにタルいっぱいの金貨をあげますよ」
 大金持ちの男は、そう約束しました。
 お父さんは、大金持ちの男といっしょに家に帰りました。
「おかえり」
と、出むかえてくれたお母さんに、お父さんは大金持ちの男の前で話し始めました。
「ウマはね、まずメスウシととりかえたよ」
「へえ、そりゃお父さん、牛乳がとれてありがたいねえ」
「だがな、メスウシをヒツジにとりかえたのさ」
「ますますいいね。セーターがあめるよ」
「けど、ヒツジをガチョウととりかえた」
「ガチョウはお祭りに食べられるよ。おいしそうだね」
「でも、ガチョウはメンドリとかえちまった」
「ああ、運がいい。タマゴを毎日食べられるなんて」
「そのメンドリを痛んだリンゴととりかえて、ほれ、もどって来たとこだ」
「わあ、幸せだ。だってさ、お父さん、聞いとくれよ。あたしはさっきネギをかしてもらいにお向かいに行ったんだよ。そしたら奥さんが、『うちには痛んだリンゴ一つありません』ってことわったのさ。でも、どう? 今のあたしはその痛んだリンゴを持っている。アハハハ、ゆかいだねえ。こんないい気分は初めてだ。やっばり、お父さんのすることにまちがいはないねえ」
 お母さんはそう言うと、うれしそうにお父さんのほっぺたにキスをしました。
 それを見た大金持ちの男は、
「素晴らしい! なんて幸せな夫婦なんだ!」
 そう言ってお父さんとお母さんに、約束どおりタルいっぱいの金貨をプレゼントしました。

おしまい

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