| 
     | 
      | 
     
        5年生の世界昔話 
          
          
         
銀の鼻 
イタリアの昔話 → イタリアのせつめい 
       むかしむかし、イタリアのある町に、せんたく屋のおかみさんがいました。 
   おかみさんには、三人の娘(むすめ)がいます。 
   おかみさんと娘(むすめ)の四人は、毎日せっせとせんたく物を洗らってはたらいていましたが、くらしは少しもらくになりません。 
  「いっそのこと、悪魔(あくま)のところでもいいから、奉公((ほうこう→住み込(すみこ)みではたらくこと)にいこうかしら」 
   ある日、いちばん上の娘(むすめ)がいいました。 
  「まあ、なんてことをいうんだい! そんなことをしたらどんなふこうな目にあうか、わからないのかい」 
  と、お母さんは娘(むすめ)をしかりました。 
   それからしばらくしたある日、黒い服をきて、銀の鼻をした上品な紳士(しんし)がやってきて、ていねいな言葉つきでいいました。 
  「おかみさん。おたくには娘(むすめ)さんが三人もいますね。そのうちの一人を、わたしの家に奉公(ほうこう)におだしになりませんか?」 
   お母さんは、その人が銀の鼻をしているのが気にいりませんでした。  
   そこで、姉娘(あねむすめ)にいいました。 
  「ねえ、世の中には銀の鼻をしている人なんていないよ。きっと悪魔(あくま)にちがいない。奉公(ほうこう)にいったら、きっと後悔(こうかい)することになるよ」 
   でも姉娘(あねむすめ)は、こんないい話はないと、銀の鼻の紳士(しんし)の家に奉公(ほうこう)にいくことにしました。 
   こうして二人は、いくつもの山をこえ、森をとおりぬけて、長い道のりを歩いていきました。  
   すると、はるか遠くのほうに、火事のようにボーッと明るくなっているところが見えました。  
  「あれは、なんですか?」 
   姉娘(あねむすめ)は、すこしこわくなってききました。 
  「わたしの家だよ。さあ、いこう」 
  と、銀の鼻の人は答えました。 
  「・・・・・・」 
   姉娘(あねむすめ)は、しぶしぶとついていきました。 
   二人は、銀の鼻の大きな宮殿(きゅうでん)につきました。 
   銀の鼻は、宮殿(きゅうでん)のへやからへやを案内しました。 
   そして、さいごのへやの前へくると、姉娘(あねむすめ)にカギをわたしていいました。 
  「ほかのへやはいつでも入っていいが、このへやだけは、どんなことがあっても開けてはいけないよ」 
   その晩(ばん)、娘(むすめ)がへやでねむっていると、銀の鼻はそっと入ってきて、娘(むすめ)のかみにバラの花をさして出て行きました。 
   明くる日、銀の鼻は用事ででかけていきました。  
   娘(むすめ)は、あのへやを開けてみたくてたまりません。 
   そしてとうとう、ひみつのへやのとびらに、かぎをさしこんでしまいました。  
   とびらを開けると、へやの中からまっ赤な炎(ほのお)がふき出し、中ではやけただれた人がおおぜい苦しんでいました。 
   銀の鼻は、やっぱり悪魔(あくま)だったのです。 
   姉娘(あねむすめ)は、アッとさけんでにげだしましたが、髪(かみ)のバラの花がこげてしまいました。 
   銀の鼻はかえってきて、バラの花がこげているのに気がつくと、  
  「よくも、いいつけにそむいたな!」 
  と、さけんで、娘(むすめ)を地獄(じごく)のへやになげこんでしまいました。 
   あくる日、銀の鼻はまた、せんたく屋のおかみさんのところへいきました。  
  「娘(むすめ)さんは、たいへんしあわせにはたらいています。でも、まだ人手がたりません。二ばんめの娘(むすめ)さんもよこしてください」 
   それで二ばんめの娘(むすめ)も、奉公(ほうこう)することになりました。 
   宮殿(きゅうでん)につくと、銀の鼻はへやからへやを案内し、さいごのへやの前でカギをわたしていいました。 
  「このへやは、どんなことがあってもあけてはいけないよ」 
   その晩(ばん)、二ばんめの娘(むすめ)がねむっていると、銀の鼻はそっと入ってきて、髪の毛(かみのけ)にカーネーションの花をさしました。 
   あくる日、銀の鼻は用事ででかけました。  
   娘(むすめ)は、あのへやをあけてみたくてたまりません。 
   すぐに、ひみつのへやの前へいって、カギでとびらをあけました。  
   すると、まっかな炎(ほのお)と黒い煙(けむり)がふきだして、火のへやの中にねえさんの姿(すがた)を見つけました。 
  「妹よ。たすけて、たすけて」 
   ねえさんのさけび声をきくと、ビックリした妹は、あわててとびらをしめてにげだしました。  
   やがてかえってきた銀の鼻は、娘(むすめ)のカーネーションが、こげてしおれているのに気がつきました。 
  「よくも、あのへやをあけたな!」 
   悪魔(あくま)は娘(むすめ)をつかまえると、地獄(じごく)のへやの中へなげこんでしまいました。 
   あくる日、銀の鼻はまた、せんたく屋の店にいって、いちばんりこうな末娘(むすめ)のルチーアをつれてきました、 
   銀の鼻は宮殿(きゅうでん)のへやを案内してから、さいごのへやの前で、ねえさんたちにいったこととおなじことをいって、カギをわたしました。 
   そして、ルチーアがねむっているとき、こんどは髪(かみ)にジャスミンの花をさしました。 
   あくる朝ルチーアは、鏡に顔をうつして、髪(かみ)のジャスミンに気づきました。 
  「まあ、きれいな花。でも、これではじきにしぼんじゃうから、コップにさしておきましょう」 
   そういって、花をコップにさしました。  
   銀の鼻は、用事ででかけました。  
   やはりルチーアも、あのへやをあけてみたくてたまりません。  
   すぐにとんでいって、ひみつのへやのとびらをあけました。  
   すると、  
  「ルチーア。たすけて、たすけて」 
   火のへやの中から、かなしい姉たちの声がきこえました。  
   ルチーアは自分のへやへにげかえると、ジャスミンの花を髪(かみ)にさし、どうしてねえさんたちをたすけようかとかんがえました。 
   銀の鼻がかえってみると、ジャスミンの花はそのままです。  
  「おまえは、いいつけをよく守るよい子だ。ずっといてくれるね」 
  「はい。でも、お母さんがどうしているか気がかりです」 
  「じゃあ、わたしがいって見てくるよ」 
   ルチーアは銀の鼻がでかけると、いちばん上のねえさんを地獄(じごく)のへやからたすけだして、袋(ふくろ)の中にいれました。 
   やがて、銀の鼻がかえりました。  
  「ご主人さま。これはせんたく物です。うちへとどけてください。重いですが、道のとちゅうであけて見てはいけません。わたしはここで見はっていますよ」 
  「いいとも。あけやしないよ」 
  と、いって、銀の鼻はでかけました。 
   銀の鼻は袋(ふくろ)があまり重いので、道のとちゅうで肩(かた)からおろして、中を見ようとしました。 
   すると、  
  「見てるわよ。見てるわよ」 
  と、いう声がきこえました。 
   ルチーアはねえさんに、もし袋(ふくろ)があけられそうになったら、そういうようにいっておいたのです。 
   銀の鼻はしかたなく、重い袋(ふくろ)をかついでお母さんのところへとどけました。 
   こうしてまもなく、二ばんめのねえさんもうちへかえることができました。  
   そしてこんどは、ルチーアがにげるばんです。  
   ルチーアは、自分そっくりの人形をつくりました。  
  「ご主人さま。わたしはからだのぐあいが悪くて、あしたはねているかもしれませんが、ベッドのわきのせんたく物をまたとどけてください」 
   そういって、あくる日ルチーアは人形をベッドにねかせ、自分は袋(ふくろ)の中にはいりました。 
   銀の鼻は袋(ふくろ)をかついででかけましたが、重くてたまりません。 
   そこで袋(ふくろ)をおろして、中を見ようとしました。 
   すると中から、  
  「見てるわよ」 
  と、いう声がきこえてきました。 
  「あの子にはかなわん。まるで、そばで見ているようだ」 
   銀の鼻はしかたなく、そのままかついでお母さんのところへとどけました。  
  「では、せんたく物はここへおくよ。わたしはルチーアが病気なので、いそいでかえらなくてはならんから」 
  と、銀の鼻はいそいでかえっていきました。 
   親子四人は、手をとりあって喜びました。  
   ルチーアは、悪魔(あくま)の家からお金をたくさん持ってきていたので、くらしがらくになったばかりか、戸口には魔(ま)よけの十字架(じゅうじか)を立てたので、悪魔(あくま)はもうよりつきませんでした。 
      おしまい         
         
        
       
     | 
      | 
     |